Q:日割り計算の計算式はどのようなものがありますか?
給与計算で日割り計算をしたいのですが、日割り計算は、
- 1か月の歴日数で計算
- 営業日数で計算
のいずれが正しいのでしょうか?
日々の業務で、1日分の欠勤控除をする場合や、月の途中で入退社や昇給が発生した場合に「日割り計算」が必要になります。
「歴日」や「営業日」で日割り計算をすると、対象となった月の日数(1月は31日あり、2月は28日しかない。)や、営業日数の長さで、1日あたりの単価が変わってしまいます。
また、同じ月で見ても、全歴日が営業日ではないので、歴日数と営業日でも単価が変わってしまいますが、どのように単価を計算すればいいのでしょうか?
「月の所定労働日(所定労働時間)」がおすすめ
歴日や営業日で計算した場合、ご質問のとおり、月によって単価が変わってきてしまいますので、月の所定労働日(月の所定労働時間)を決めて計算することをおすすめします。
月の所定労働日(月の所定労働時間)とは、後で計算方法を説明しますが、一言でいうと、毎月の平均的な労働日数(もしくは労働時間)を計算する方式です。
月の所定労働日基準にしておくと、1年に1回のみ計算しておけば単価を何度も計算する煩わしさから解放されますし、割増賃金の単価の計算にも流用できるため、月の所定労働日基準で計算すると実務が簡便になります。
それでは、月の日数に左右されない、日割計算(時間単価)の計算方法を見ていきましょう。
(そもそも)月給の日割り計算の方法のパターン
日割り計算は「歴日基準」「労働日基準」「所定労働日(所定労働時間)基準」の3種類があり、それぞれメリット・デメリットがあります。
1.その月の暦日基準
給与 ÷ その月の日数 × 働いた日数
⇒2月は単価が高くなり、8月は単価が小さくなる
2.その月の営業日基準(所定労働日基準)
給与 ÷ その月の所定労働日数【営業日数】 × 働いた日数
3.月の所定労働日基準
給与 ÷ 月の所定労働日数 × 働いた日数
※月平均の所定労働日数 = 年間の所定労働日数 ÷ 12
仮に日割り計算をするけど、「半日しか出社しなかった日がある」「時間単位で計算したい」となると以下の計算式になります。
4.月の所定労働時間基準
時間単価 ÷ 月の所定労働日数 × 働いた時間数
歴日・営業日で日割り計算すると損得が発生してしまう
暦日数で割る場合は、月給28万円とすると、
2月の場合は(28万円÷28日=10,000円)となり、時間単価は1日1万円となります。一方で、1か月が31日ある1月の場合は(28万円÷31日=9,032.5円)となり、1万円以下の計算になります。
このように、退職した月によって給与金額が異なってしまう結果になります。
同様に、営業日で割った場合でも、休みが多い月や出勤日数が多い月があるため、その月によって給与が異なります。
歴日での計算方法は、月の途中で退職した際に必要な計算方法としてイメージされやすいですが、他にも、割増賃金を算出のための時間単価(1時間の残業した場合にいくら支払えばいいのか)という計算にも影響を与えます。給与の日割り計算は簡単なようで、考慮すべき点が多いのです。
年間の所定労働時間をもとに単価を計算する方法
1月が損をする、2月だと得をする、というように毎月毎に計算をすると手間がかかるため、これを簡略化する方法があります。年間の労働時間からさかのぼって計算する。つまり「所定労働時間で時間単価を計算する」という方法があります。
Step1:1年間の所定労働時間を計算する
1年は365日あるので、そこから年間の休日を引きます。休日が105日の場合は、
365日(1年の歴日数)-105日(年間休日)=260営業日
次に、この260日に対して、1日の所定労働時間をかけます。
260営業日×8時間(所定労働時間)
=2,080時間(年間の所定労働時間)
この計算方法で、年間の所定労働時間は2,080時間あるということが分かります。
今回は年間の休日を105日にしましたが、年間休日は会社ごとに決まります。105日にした理由は、こちらのコラムも参照ください。
Step2:1か月の所定労働時間を計算する
1年間の所定労働時間が2,080時間と分かりましたので、12ヶ月で割ります。
2080時間(年間の所定労働時間)÷12ヶ月
=173.333時間(月の所定労働時間)
この会社の場合、1か月の所定労働時間は173時間という計算になります。
Step3:時間単価を計算する
例えば、月給28万円の人の場合、28万円に所定労働時間の173時間を割り戻し時間単価を計算すると、給与の日割り計算の時間単価は1618.4円となります。
280,000円(月給)÷173時間(月の所定労働時間)
=1,618.4円(時間単価)
なお、時間単価は割増賃金の計算の基礎にもなります。
- 通常の割増賃金(残業代)は、時間単価×1.25
- 法定休日の割増賃金は、時間単価×1.25
- 深夜時間帯の割増賃金は、時間単価×0.25
となり、日割り計算だけでなく、時間外や深夜・休日の時間単価も計算できます。
年間の休日は毎年カレンダーで決めましょう
年によって、休日の日数は異なります。正しい運用をするのであれば、毎年4月1日や1月1日など決めた日を起算日にして、毎年の休日の日を決め営業日のカレンダーを作りましょう。
なお、「有給休暇や夏季休暇は休日に含むのか、含まないのか」という疑問が出てきますが、休日と休暇は似ていて、まったく異なるものです。
- 「休日」とは、「労働の義務がない日」
- 「休暇」とは、「労働の義務はあるが、労働が免除されている日」
です。365日から差し引くものは、「労働の義務」のない、「休日」のみになります。
「夏季休暇」など、実態は「労働の義務」のない「休日」であるにも関わらず、「休暇」と称している日もありますので、どの日が労働基準法でいう「休日」で、どの日が「休暇」なのかは、就業規則や年間のカレンダーでしっかり定義しましょう。
まとめ
時間単価を所定労働時間で割ると、1月のように日数が長い月や、2月のように日数が少ない月など、1か月の歴日数に関係無く、同じ数字173時間(年間の休日が105日の場合)で月給を割るため、月により日割り給与が異なる状態を回避することが出来ます。
歴日や営業日数だと、毎月単価を計算しなおさなければなりませんので、事務手続きとしては煩雑になります。しかし、年間の所定労働時間から時間単価を計算する方法であれば、年に1回計算すれば月に関わらず計算単価は変わりません。
なお、その都度、どの形式にするのではなく、どの形式で日割り計算をするのか就業規則や賃金規程で定めておくことが望ましいです。
ところで、労働日数/労働時間の上限、休日の最小日数は何日?
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