Q:当社で有期雇用の従業員が契約期間の満了で退職します。契約期間満了による退職の場合
- 従業員からの退職届の提出は必要になるのでしょうか?
- 雇用保険を脱退する際の退職事由は、「会社都合」になるのでしょうか?それとも「自己都合」になるのでしょうか?
また、対象となる従業員の上長が、契約の更新をせず期間満了とすることを、口頭で本人に伝えているのですが問題はないのでしょうか?
「自己都合」でも「会社都合」でもありません
「自己都合」か「会社都合」かを考える前に、まず、「契約期間の途中」での退職なのか、それとも「契約期間の終了」による退職なのかで分岐があります。
契約期間の途中での退職なのか、契約期間の終了による退職なのか?
契約期間の「途中」で、雇用契約を終了する場合
- 本人が申し出た場合:自己都合(本人が一方的に契約を解除した場合「辞職」となります。)
- 会社が申し出た場合:会社都合(会社が一方的に契約を解除した場合「解雇」となります。)
会社側が申出(お願い)をすることを「退職勧奨」と言い、一方的に雇用契約を解除した場合は「普通解雇」と呼びます。
退職勧奨は、あくまでも”お願い”ですので、従業員本人は拒否をすることは出来ますし、会社側が従業員に対して退職勧奨に合意するように強要することはできません。また、退職勧奨に合意するために、再就職までの猶予期間を用意したり、割増退職金を支給するなど個別に条件を設けることも可能です。
契約期間が「満了」して、雇用契約が終了する場合
雇用契約満了による雇用契約の終了:「雇止め」(やといどめ)といいます。
今回は、有期雇用契約の満了による雇用契約の終了のことを「雇止め」と言い、今回の質問のケースは「雇止め」になります。
契約の更新の有無はともかく、最初から契約の終了日は分かっていますので、
- 契約期間の途中で、
- 従業員から、
- 雇用契約の終了の意思表示
の書類である退職届は不要であり、会社から「契約は○月○日で終了し、更新しません」という雇止めの通知書を交付することになります。
また、離職票を作成する際にも通知書の添付が必要になりますし、後述するとおり、いつ通知したのかも必要になる場合や、更新の有無について言った/言わないと揉めないよう書面による通知を行いましょう。
有期雇用の終了の通知
有期労働契約の雇止めについてですが、
- 1年を超えて継続勤務
- 3回以上更新している
- 1年を超える契約期間
のいずれかの有期雇用契約を更新しない場合、その従業員に対して30日前までに雇止めの予告する必要があります。
その他注意すること
ちなみに、雇用契約を締結する時点で、
- 契約更新をする
- 契約更新をしない
- 契約更新をすることがある
のいずれかを明記しておかなければなりません。
- 契約更新を”しない”としていた場合:そもそも、労使ともに更新しないことは雇用契約開始の時点で知っているので、前述の通知は不要になります。
- 契約更新を”する”としていた場合:更新することを約束しているので、雇止めは出来ません。
失業保険はすぐもらえるのか?
契約の更新をしない「雇止め」となった場合は、失業保険はすぐに出るのか?という論点が出てきます。
原則は待期期間(給付制限)なくもらえますが、こちらは「雇止め」までにどのように働いていたのかで変わってきます。似たような名称ですが、異なる区分に分類されます。
特定「受給」”資格者”とは
「特定受給資格者」とは、倒産・解雇等により、再就職の準備をする時間的余裕がなく離職を余儀なくされた者をいいます。厚労省の資料は詳細に書かれていますが簡潔に要約すると…。
- 「倒産」等により離職した者
破産、民事再生、月30人以上、1/3を超える被保険者の離職、事業所の廃止、通勤困難な場所への移転、特別に退職勧奨を受けた など - 「解雇」等により離職した者
普通解雇、賃金の1/3を超える額の未払、突然賃金が85%未満に低下した、過重労働があり会社が対応しない、職種転換の配慮がない、有期雇用で3年以上雇用されていた&更新の期待があったが更新されなかった。など
というように、有期雇用でも3年以上の長期に渡り雇用されており、かつ更新の期待があったが「聞いてないよ。。。」となった有期雇用契約の方は、「特定受給資格者」となります。
特定「理由」”離職者”とは
「特定理由離職者」とは、有期雇用の被保険者が契約を更新できなかった、やむを得ない理由があり離職した者をいいます。
- 期間の定めのある労働契約の期間が満了し、かつ、当該労働契約の更新がないことにより離職した者
- 正当な理由のある自己都合により離職した者
体力の不足、心身の障害、疾病、出産・育児等、親の死亡・介護、別居生活が困難になった、外部の理由で通勤が困難になった、希望退職制度に応募した。 など
なので、有期雇用契約の期間が比較的短く「特定受給資格者」のように、「聞いてないよ。。」とならない人は特定理由離職者になります。
※コロナ禍の影響で特別に「特定理由離職者」も「特定受給資格者」として扱ってくれるケースもあります。詳細は厚労省のパンフも確認ください。
「特定受給資格者」と「特定理由離職者」との違い
名称が似ており、給付制限もない「特定受給資格者」と「特定理由離職者」の違いは何かというと、失業保険(基本手当)がもらえる日数が異なります。「特定受給資格者」は最大330日受給できるのに対し、「特定理由離職者」は最大で150日しか受給できません。30歳未満&働いていた期間が5年未満であれば、いずれも90日になります。
すぐに貰えると言っても条件はある
失業保険(正確には「基本手当」と言います。)は、有期雇用期間が満了して「雇止め」になったと言っても、必ずもらえるものではありません。その条件を見てみましょう。
(1)一定期間雇用保険の被保険者であること
雇用保険の被保険者期間(加入している期間)が一定期間なければ、失業保険(基本手当)は貰えません。
- 原則:離職の日以前2年間に、被保険者期間が通算して12か月以上ある。
- 例外:「準備できない・どうしようもない事情で離職した」と認定された場合は、離職の日以前1年間に、被保険者期間が通算して6か月以上ある。
(2)就労の意思と能力があること
当たり前ですが就労の意思が無い場合や、すでに就職先が決まっている場合は基本手当を受給できません。
例えば、就労ができないということで、健康保険から「傷病手当金」をもらいながら、就労の能力が要件である失業保険(基本手当)をもらうことや、独立起業の準備期間に(つまり就職先が決まっている)、失業保険(基本手当)をもらうことはできません。
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労働法の原理原則を確認する際の基本書です。
令和3年版 労働基準法 上巻 (労働法コンメンタールNo.3)
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