当社は人手不足の業界であり、人員の確保が大きな課題となっています。
そこで会社として「社員紹介制度」を採用しようと考えています。
社員紹介制度は
- 当社の社員が、就職希望者を紹介
- その方が、当社に採用され
- その後、紹介者及び紹介された者のいずれもが6か月間勤続した場合
紹介者に対して、○万円を報奨金として支給する制度です
しかし、職業安定法第40条で、以下のように定められています。
労働者の募集を行うものは、その被用者で当該労働者の募集に従事するもの又は募集受託者に対し、賃金、給料 その他これらに準ずるものを支払う場合、又は第36条第2項の認可に係る報酬を与える場合を除き、報酬を与えて はならない。
そのため、当社の社員紹介制度として支払う報奨金は、紹介者の労働の対価としての性質はなく、職業安定法40条にある「賃金、給料その他これらに準ずるもの」には当たらないのではないかと思います。
賃金に当たらない以上、報奨金制度は職業安定法第40条に違反しており、同制度を継続すれば。同法第65条第6号に基づき、6か月以下の懲役又は30万円以下の罰金に処せられるリスクがあると考えていいいのでしょうか?
同法第67条では、法人と、代表者・使用人その他従業員が共に処罰されることになるので、心配しています。
職業安定法第40条の条件を整理し制度を整備しましょう
職業安定法第40条には何が書かれているのか?
職業安定法40条の解釈について、○○県の労働局受給調整部にも確認しましたが、職業紹介と銘打つと、職安法40条に抵触すると案内しているそうですが、規程に組み込み、手当等で支払う等であれば、40条には抵触しないということになります。
また、実際に紹介制度のある会社も数多くあることは、○○県の労働局も承知しており、紹介制度の現金給付、即職安法違反ではないと認識されているようです。
曖昧である以上、職業安定法第40条の条件を整理し、違反にならないように制度を整備することになります。
職業安定法第40条を見ると
- 「その被用者で当該労働者の募集に従事するもの」であること
- 「賃金、給料 その他これらに準ずるものを支払う場合」であること
- 第36条第2項の認可に係る報酬を与える場合を除き、報酬を与えてはならない。
とあります。
労働者を雇用しようとする者が、その被用者以外の者をして報酬を与えて労働者の募集に従事させようとすると きは、厚生労働大臣の許可を受けなければならない。
2 前項の報酬の額については、あらかじめ、厚生労働大臣の認可を受けなければならない。
3 労働者を雇用しようとする者が、その被用者以外の者をして報酬を与えることなく労働者の募集に従事させよ うとするときは、その旨を厚生労働大臣に届け出なければならない。
そもそも職業安定法の趣旨は「就職に関して金銭が飛び交い、職業選択の自由が阻害されること」を防ぐことです。
自然に解釈すると、
- 積極的に募集しているのは採用担当者であり、従業員は情報提供・紹介をしているので、「採用担当が1人採用したら、○万円の報酬を別途」ではない。
- 仮に、紹介者が「募集に従事する者」に含まれるとしても、別途報酬を支払うことがNGであり、給与や賃金の中で支払うこと自体は禁止していない。
ので、
- (1)の範囲で考えるのであれば、紹介者に情報提供料を支払うことは、即アウトとは言えない。
- (2)の紹介者と解釈としても、人事評価で加点し、賞与に反映したり、別の名目の手当で賃金・給与の中で支払うことで対応する。
というのが現実的な着地点であると考えます。
金額に注意すること
仮に情報提供料として、紹介者に金銭を支給するとなると、金額が問題になります。
「1人紹介すると、100万円支給する」など、本来の賃金の金額と比較し著しくバランスが悪くなると「仕事よりも人を紹介する方が得」となります。
そうなると「本業やるより人材に徹した方が良い」と労働意欲を削ぐことになりますし、まさに、職業安定法でいう職業の紹介が生業になってしまいます。
金額は、本業の給与より少ない金額とするのが、一般的な判断と考えます。
支給方法にも注意
【1】お礼として、社員に現金を支給する場合は、一時所得で課税処理で支給しますが、特別控除額(50万円)が適用されますので、50万円以内であれば非課税と同じようになります。
【2】クオカードやプリペイドカードのようなもので支給することはOKか?という論点もあります。金券ですので前述の現金と同様の処理になると考えて良いと思います。
なお、所得税の領域については、税理士・会計士の領域になりますので、税理士さんにも確認いただければ幸いです。
そもそも「採用・労働契約」とは?
法律の”そもそも”に立ち返る「労働契約」は本来どのような契約を結んでも自由であることが原則です。しかし、制限がない場合は、相対的に立場の強い使用者有利の条件で契約が締結されてしまいますので、労働基準法で制限が課せられています。
”ありかた”を見直す
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労働法の原理原則を確認する際の基本書です。
令和3年版 労働基準法 上巻 (労働法コンメンタールNo.3)
令和3年版 労働基準法 下巻 (労働法コンメンタールNo.3)