「労働契約」は本来どのような契約を結んでも自由であることが原則です。しかし、制限がない場合は、相対的に立場の強い使用者有利の条件で契約が締結されてしまいますので、労働基準法で制限が課せられています。

この記事では「労働契約」について、労働基準法などでどのような定めがあり、労務管理で配慮しなければならないのか、採用時の手続き、契約内容に関する制限などについて説明していきます。

労働基準法第13条(この法律違反の契約)

この法律違反の契約

民法第623条の契約は「契約自由の原則」という原則が働き、双方が合意すれば契約の内容は自由に決められます。

しかし、労働契約の場合は、使用者側の方が立場が有利になりがちですので、労使が対等な関係になるようにするために、労働基準法で最低基準を定めています。この最低基準を満たしていない労働契約は、労働基準法で定められる基準に迄引き上げられるようになっています。

この法律違反の契約

第十三条 この法律で定める基準に達しない労働条件を定める労働契約は、その部分については無効とする。この場合において、無効となつた部分は、この法律で定める基準による。

労働基準法第14条(契約期間等)

有期雇用契約~契約期間・更新・無期転換

労働契約は「期間を定めない」場合以外は、雇用契約の期間の上限が3年と定められています。例外的に以下の2点については、契約期間が5年でも構わないようになっています。

  1. 専門的な知識、技術又は経験であって高度のものとして、厚生労働大臣が定める基準に該当する専門的知識等を有する労働者との間に締結される労働契約
  2. 満六十歳以上の労働者との間に締結される労働契約
契約期間等

第十四条 労働契約は、期間の定めのないものを除き、一定の事業の完了に必要な期間を定めるもののほかは、三年(次の各号のいずれかに該当する労働契約にあつては、五年)を超える期間について締結してはならない。

一 専門的な知識、技術又は経験(以下この号及び第四十一条の二第一項第一号において「専門的知識等」という。)であつて高度のものとして厚生労働大臣が定める基準に該当する専門的知識等を有する労働者(当該高度の専門的知識等を必要とする業務に就く者に限る。)との間に締結される労働契約

二 満六十歳以上の労働者との間に締結される労働契約(前号に掲げる労働契約を除く。)

② 厚生労働大臣は、期間の定めのある労働契約の締結時及び当該労働契約の期間の満了時において労働者と使用者との間に紛争が生ずることを未然に防止するため、使用者が講ずべき労働契約の期間の満了に係る通知に関する事項その他必要な事項についての基準を定めることができる。

③ 行政官庁は、前項の基準に関し、期間の定めのある労働契約を締結する使用者に対し、必要な助言及び指導を行うことができる。

労働基準法第15条(労働条件の明示)

労働条件の伝達

会社は、従業員と労働契約を締結する際、賃金や労働時間、その他の労働条件を明示しなければなりません。なお、労働条件の一部については書面の交付が必要です。後々のトラブルを避けるためにも、すべての労働条件を書面で伝えることをお勧めします。

労働条件の明示

第十五条 使用者は、労働契約の締結に際し、労働者に対して賃金、労働時間その他の労働条件を明示しなければならない。この場合において、賃金及び労働時間に関する事項その他の厚生労働省令で定める事項については、厚生労働省令で定める方法により明示しなければならない。

② 前項の規定によつて明示された労働条件が事実と相違する場合においては、労働者は、即時に労働契約を解除することができる。

③ 前項の場合、就業のために住居を変更した労働者が、契約解除の日から十四日以内に帰郷する場合においては、使用者は、必要な旅費を負担しなければならない。

労働基準法施行規則 第5条

労働基準法施行規則 第5条

第五条  使用者が法第十五条第一項 前段の規定により労働者に対して明示しなければならない労働条件は、次に掲げるものとする。ただし、第四号の二から第十一号までに掲げる事項については、使用者がこれらに関する定めをしない場合においては、この限りでない。

一  労働契約の期間に関する事項
一の二  就業の場所及び従事すべき業務に関する事項
二  始業及び終業の時刻、所定労働時間を超える労働の有無、休憩時間、休日、休暇並びに労働者を二組以上に分けて就業させる場合における就業時転換に関する事項
三  賃金(退職手当及び第五号に規定する賃金を除く。以下この号において同じ。)の決定、計算及び支払の方法、賃金の締切り及び支払の時期並びに昇給に関する事項
四  退職に関する事項(解雇の事由を含む。)
四の二  退職手当の定めが適用される労働者の範囲、退職手当の決定、計算及び支払の方法並びに退職手当の支払の時期に関する事項
五  臨時に支払われる賃金(退職手当を除く。)、賞与及び第八条各号に掲げる賃金並びに最低賃金額に関する事項
六  労働者に負担させるべき食費、作業用品その他に関する事項
七  安全及び衛生に関する事項
八  職業訓練に関する事項
九  災害補償及び業務外の傷病扶助に関する事項
十  表彰及び制裁に関する事項
十一  休職に関する事項

○2  法第十五条第一項 後段の厚生労働省令で定める事項は、前項第一号から第四号までに掲げる事項(昇給に関する事項を除く。)とする。

○3  法第十五条第一項 後段の厚生労働省令で定める方法は、労働者に対する前項に規定する事項が明らかとなる書面の交付とする。

労働基準法第16条(賠償予定の禁止)

労働契約の禁止事項~「遅刻1回、罰金3,000円」はNG

会社は、労働契約の不履行について違約金を定め、又は損害賠償額を予定する契約をしてはいけません。

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悪い使用者
遅刻1回、罰金3,000円。退職したいなら、300万持ってこい。

など、某闇金マンガや、某地下ギャンブル漫画のようなことをやると労働基準法違反になります。

賠償予定の禁止

第十六条 使用者は、労働契約の不履行について違約金を定め、又は損害賠償額を予定する契約をしてはならない。

労働基準法第17条(前借金相殺の禁止)

「借金のカタに売られる」も当然にNG

前借金相殺の禁止

第十七条 使用者は、前借金その他労働することを条件とする前貸の債権と賃金を相殺してはならない。

労働基準法第17条(強制貯金)

強制貯金

強制貯金

第十八条 使用者は、労働契約に附随して貯蓄の契約をさせ、又は貯蓄金を管理する契約をしてはならない。

② 使用者は、労働者の貯蓄金をその委託を受けて管理しようとする場合においては、当該事業場に、労働者の過半数で組織する労働組合があるときはその労働組合、労働者の過半数で組織する労働組合がないときは労働者の過半数を代表する者との書面による協定をし、これを行政官庁に届け出なければならない。

③ 使用者は、労働者の貯蓄金をその委託を受けて管理する場合においては、貯蓄金の管理に関する規程を定め、これを労働者に周知させるため作業場に備え付ける等の措置をとらなければならない。

④ 使用者は、労働者の貯蓄金をその委託を受けて管理する場合において、貯蓄金の管理が労働者の預金の受入であるときは、利子をつけなければならない。この場合において、その利子が、金融機関の受け入れる預金の利率を考慮して厚生労働省令で定める利率による利子を下るときは、その厚生労働省令で定める利率による利子をつけたものとみなす。

⑤ 使用者は、労働者の貯蓄金をその委託を受けて管理する場合において、労働者がその返還を請求したときは、遅滞なく、これを返還しなければならない。

⑥ 使用者が前項の規定に違反した場合において、当該貯蓄金の管理を継続することが労働者の利益を著しく害すると認められるときは、行政官庁は、使用者に対して、その必要な限度の範囲内で、当該貯蓄金の管理を中止すべきことを命ずることができる。

⑦ 前項の規定により貯蓄金の管理を中止すべきことを命ぜられた使用者は、遅滞なく、その管理に係る貯蓄金を労働者に返還しなければならない。

関連する労働契約法

  • 労働契約法第6条(労働契約の成立)
  • 労働契約法第7条(労働契約の成立)
  • 労働契約法第8条(労働契約の内容の変更)
  • 労働契約法第18条(有期労働契約の期間の定めのない労働契約への転換)
  • 労働契約法第19条(契約社員(有期雇用契約)の無期雇用への転換)

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