「変形労働時間」には1か月単位の変形労働時間制、1年単位の変形労働時間制、1週間単位の変形労働時間制、そしてフレックスタイム制があります。この記事では「変形労働時間」について、労働基準法などでどのような定めがあり、労務管理で配慮しなければならないのか説明していきます。

労働基準法第32条の2(1ヶ月単位の変形労働時間制)

変形労働時間制とは、労働時間を1日単位ではなく、月単位、年単位で計算することで、繁忙期等により勤務時間が増加しても時間外労働としての取扱いを不要とする労働時間制度です。

1ヶ月単位の変形労働時間制

労使協定や就業規則により、1ヶ月以内の一定の期間を平均し1週間当たりの労働時間が法定労働時間を超えない定めをしたときは、特定された週または特定された日において法定労働時間を超えて労働させることができます。

1ヶ月単位の変形労働時間制

第三十二条の二 使用者は、当該事業場に、労働者の過半数で組織する労働組合がある場合においてはその労働組合、労働者の過半数で組織する労働組合がない場合においては労働者の過半数を代表する者との書面による協定により、又は就業規則その他これに準ずるものにより、一箇月以内の一定の期間を平均し一週間当たりの労働時間が前条第一項の労働時間を超えない定めをしたときは、同条の規定にかかわらず、その定めにより、特定された週において同項の労働時間又は特定された日において同条第二項の労働時間を超えて、労働させることができる。

1ヶ月単位の変形労働時間制を採用する条件

1ヶ月単位の変形労働時間制を採用するためには、以下の要件が必要になります。

  1. 書面による労使協定又は就業規則その他これに準ずるものにおいて
  2. 1ヶ月以内の一定の期間を平均して1週間の労働時間が法定労働時間
    を超えない範囲で
  3. 各日および各週の労働時間を具体的に定めること
  4. 変形期間の起算日を定めること
  5. 就業規則の変更をおこなった場合には、就業規則の変更を所轄の労働基準監督署への届出。

取り決めの方法は2種類ある

「書面による労使協定又は就業規則その他これに準ずるもの」を見ていきましょう。文字通り変形労働時間制を導入する場合は、就業規則もしくは、労使協定で定めることになります。

就業規則その他これに準ずるものにより定める場合

常時10人以上の労働者を使用する事業場は、就業規則を定めなければなりません。(労働基準法第89条)、10人以上の労働者を使用する事業所が、1ヶ月単位の変形労働時間制を採用する場合には、必ず就業規則で定めをする必要があります。
常時10人未満の労働者を使用する事業場は、就業規則に準ずる文書で定めることになっています。

■労使協定で定める場合

労使協定は、その事業場に労働者の過半数で組織する労働組合がある場合は、その労働組合と、また、過半数で組織する労働組合がないときは、労働者の過半数を代表する者との書面により以下の事項を協定しなければなりません。

  1. 1ヶ月以内の一定期間を平均し1週間あたりの労働時間が法定労働時間(40時間、特例事業場は44時間)を超えない定め
  2. 変形期間
  3. 変形期間の起算日
  4. 対象労働者の範囲
  5. 変形期間の各日および各週の労働時間
  6. 協定の有効期間

労働基準監督署への届出が必要

1ヶ月単位の変形労働時間制を有効とするためには、労働基準監督署への届出が必要になります。

② 使用者は、厚生労働省令で定めるところにより、前項の協定を行政官庁に届け出なければならない。

1ヶ月単位の変形労働時間制の適用除外

1ヶ月単位の変形労働時間制を導入しても、適用が除外される者がいます。

満18歳未満の年少者

満18歳未満の年少者は、1ヶ月単位の変形労働時間制の対象外となります。
ただし満15歳以上で満18歳未満の者(満15歳に達した日以後の最初の3月31日までの間を除く)については、1週間について48時間、1日について8時間を超えない範囲でならば、1ヶ月単位の変形労働時間制を適用することが可能。

妊産婦(妊娠中の女性及び産後1年を経過しない女性)

妊産婦が請求したときには、1ヶ月単位の変形労働時間制を採用しているときでも、1週又は1日の法定労働時間を超えて労働させることはできません。

労働基準法第32条の3(フレックスタイム制)

フレックスタイム制

フレックスタイム制とは、定められた労働時間の中であれば、労働者自身が出社時間と退社時間を決めることができる制度です。

フレックスタイム制

第三十二条の三 使用者は、就業規則その他これに準ずるものにより、その労働者に係る始業及び終業の時刻をその労働者の決定に委ねることとした労働者については、当該事業場の労働者の過半数で組織する労働組合がある場合においてはその労働組合、労働者の過半数で組織する労働組合がない場合においては労働者の過半数を代表する者との書面による協定により、次に掲げる事項を定めたときは、その協定で第二号の清算期間として定められた期間を平均し一週間当たりの労働時間が第三十二条第一項の労働時間を超えない範囲内において、同条の規定にかかわらず、一週間において同項の労働時間又は一日において同条第二項の労働時間を超えて、労働させることができる。

一 この項の規定による労働時間により労働させることができることとされる労働者の範囲
二 清算期間(その期間を平均し一週間当たりの労働時間が第三十二条第一項の労働時間を超えない範囲内において労働させる期間をいい、三箇月以内の期間に限るものとする。以下この条及び次条において同じ。)
三 清算期間における総労働時間
四 その他厚生労働省令で定める事項

② 清算期間が一箇月を超えるものである場合における前項の規定の適用については、同項各号列記以外の部分中「労働時間を超えない」とあるのは「労働時間を超えず、かつ、当該清算期間をその開始の日以後一箇月ごとに区分した各期間(最後に一箇月未満の期間を生じたときは、当該期間。以下この項において同じ。)ごとに当該各期間を平均し一週間当たりの労働時間が五十時間を超えない」と、「同項」とあるのは「同条第一項」とする。

③ 一週間の所定労働日数が五日の労働者について第一項の規定により労働させる場合における同項の規定の適用については、同項各号列記以外の部分(前項の規定により読み替えて適用する場合を含む。)中「第三十二条第一項の労働時間」とあるのは「第三十二条第一項の労働時間(当該事業場の労働者の過半数で組織する労働組合がある場合においてはその労働組合、労働者の過半数で組織する労働組合がない場合においては労働者の過半数を代表する者との書面による協定により、労働時間の限度について、当該清算期間における所定労働日数を同条第二項の労働時間に乗じて得た時間とする旨を定めたときは、当該清算期間における日数を七で除して得た数をもつてその時間を除して得た時間)」と、「同項」とあるのは「同条第一項」とする。

④ 前条第二項の規定は、第一項各号に掲げる事項を定めた協定について準用する。ただし、清算期間が一箇月以内のものであるときは、この限りでない。

労働基準法第32条の3の2(一箇月を超える清算期間)

一箇月を超える清算期間

一箇月を超える清算期間

第三十二条の三の二 使用者が、清算期間が一箇月を超えるものであるときの当該清算期間中の前条第一項の規定により労働させた期間が当該清算期間より短い労働者について、当該労働させた期間を平均し一週間当たり四十時間を超えて労働させた場合においては、その超えた時間(第三十三条又は第三十六条第一項の規定により延長し、又は休日に労働させた時間を除く。)の労働については、第三十七条の規定の例により割増賃金を支払わなければならない。

労働基準法第32条の4(1年単位の変形労働時間制)

1年単位の変形労働時間制

1年単位の変形労働時間制は、1ヶ月を超えて1年以内で労働時間を設定する変形労働時間制です。繁忙期に就業時間を長くしたり、週6日間労働にすることができるようになります。
労使協定で定めた場合、対象期間として定められた期間を平均し、1週間当たりの労働時間が40時間を超えない範囲内で、特定された週または特定された日において法定労働時間を超えて労働させることができます。

ただし、30日前前に従業員代表に連絡したり、期間中に入社・退社した人は別途清算しなければならないなど、シフト勤務としての運用は向いていません。

1年単位の変形労働時間制

第三十二条の四 使用者は、当該事業場に、労働者の過半数で組織する労働組合がある場合においてはその労働組合、労働者の過半数で組織する労働組合がない場合においては労働者の過半数を代表する者との書面による協定により、次に掲げる事項を定めたときは、第三十二条の規定にかかわらず、その協定で第二号の対象期間として定められた期間を平均し一週間当たりの労働時間が四十時間を超えない範囲内において、当該協定(次項の規定による定めをした場合においては、その定めを含む。)で定めるところにより、特定された週において同条第一項の労働時間又は特定された日において同条第二項の労働時間を超えて、労働させることができる。
一 この条の規定による労働時間により労働させることができることとされる労働者の範囲
二 対象期間(その期間を平均し一週間当たりの労働時間が四十時間を超えない範囲内において労働させる期間をいい、一箇月を超え一年以内の期間に限るものとする。以下この条及び次条において同じ。)
三 特定期間(対象期間中の特に業務が繁忙な期間をいう。第三項において同じ。)
四 対象期間における労働日及び当該労働日ごとの労働時間(対象期間を一箇月以上の期間ごとに区分することとした場合においては、当該区分による各期間のうち当該対象期間の初日の属する期間(以下この条において「最初の期間」という。)における労働日及び当該労働日ごとの労働時間並びに当該最初の期間を除く各期間における労働日数及び総労働時間)
五 その他厚生労働省令で定める事項

② 使用者は、前項の協定で同項第四号の区分をし当該区分による各期間のうち最初の期間を除く各期間における労働日数及び総労働時間を定めたときは、当該各期間の初日の少なくとも三十日前に、当該事業場に、労働者の過半数で組織する労働組合がある場合においてはその労働組合、労働者の過半数で組織する労働組合がない場合においては労働者の過半数を代表する者の同意を得て、厚生労働省令で定めるところにより、当該労働日数を超えない範囲内において当該各期間における労働日及び当該総労働時間を超えない範囲内において当該各期間における労働日ごとの労働時間を定めなければならない。

③ 厚生労働大臣は、労働政策審議会の意見を聴いて、厚生労働省令で、対象期間における労働日数の限度並びに一日及び一週間の労働時間の限度並びに対象期間(第一項の協定で特定期間として定められた期間を除く。)及び同項の協定で特定期間として定められた期間における連続して労働させる日数の限度を定めることができる。

④ 第三十二条の二第二項の規定は、第一項の協定について準用する。

労働基準法第32条の4の2(1年単位の変形労働時間制)

1年単位の変形労働時間制

1年単位の変形労働時間制

第三十二条の四の二 使用者が、対象期間中の前条の規定により労働させた期間が当該対象期間より短い労働者について、当該労働させた期間を平均し一週間当たり四十時間を超えて労働させた場合においては、その超えた時間(第三十三条又は第三十六条第一項の規定により延長し、又は休日に労働させた時間を除く。)の労働については、第三十七条の規定の例により割増賃金を支払わなければならない。

労働基準法第32条の5(1週間単位の変形労働時間制)

1週間単位の変形労働時間制

小売業、旅館、料理店、飲食店など小規模の企業で、労使協定があるときは、1日について10時間まで労働させることができます。

1週間単位の変形労働時間制

第三十二条の五 使用者は、日ごとの業務に著しい繁閑の差が生ずることが多く、かつ、これを予測した上で就業規則その他これに準ずるものにより各日の労働時間を特定することが困難であると認められる厚生労働省令で定める事業であつて、常時使用する労働者の数が厚生労働省令で定める数未満のものに従事する労働者については、当該事業場に、労働者の過半数で組織する労働組合がある場合においてはその労働組合、労働者の過半数で組織する労働組合がない場合においては労働者の過半数を代表する者との書面による協定があるときは、第三十二条第二項の規定にかかわらず、一日について十時間まで労働させることができる。

② 使用者は、前項の規定により労働者に労働させる場合においては、厚生労働省令で定めるところにより、当該労働させる一週間の各日の労働時間を、あらかじめ、当該労働者に通知しなければならない。

③ 第三十二条の二第二項の規定は、第一項の協定について準用する。

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