パートタイマーの厚生年金保険加入のいわゆる「4分の3要件」の比較対象となっている「通常の労働者」の意味合いについてですが、日本年金機構のサイトによると「通常の労働者」との所定労働時間と比較して4分の3で被保険者となると記載があります。
https://www.nenkin.go.jp/service/kounen/tekiyo/jigyosho/20150518.html
当社では、歴史的な経緯があり、複数の雇用形態があり、
- A社員:所定労働時間8時間(合併前のA社の従業員)
- B社員:所定労働時間7時間(合併前のB社の従業員)
- パート社員
となっています。
今回パートタイマーは勤務時間が長いので、
- A社員が「通常の労働者」となると、社会保険の加入に該当しませんが
- B社員を「通常の労働者」とすると、社会保険加入が必要になります。
今回のケースだと「通常の労働者」とは、A社員、B社員のどちらになるのでしょうか?
ちなみに、いろいろな経緯や大人の事情があり、同じ工場で旧A社の社員と旧B社の社員が一緒に働いています。
「事業所で同様の業務に従事している」で判断します
「同様の業務に従事している」がポイント
今回のアルバイトを採用するにあたっては「同様の業務に従事している」ことが基準です。「A支店ではA社員」「B支店ではB社員」というように拠点ごとに、所定労働時間が異なるのであれば、その拠点の所定労働時間を基準とするのが妥当でしょう。
※そもそも、拠点ごとに異なるのも異動がしにくくなるので、どうかと思いますが、、
しかし、今回は1つの拠点で複数の働き方があるケースですので、旧A社の業務に従事するのか、旧B社の業務に従事するのかで判断することになり、旧A社の業務に従事するのであれば8時間の3/4以上、旧B社の業務に従事するのであれば7時間の3/4以上になります。
今回のケースでは、仮に旧B社と同じ業務をするのであれば、「同種の業務に従事するのは7時間の旧B社の方であるため、旧B社の4分の3と解釈した」という判断基準を残しておけば、差し支えないと思われます。(所轄の年金事務所と相談をしておけば、より安全です。)
全員が「同様の業務に従事している」場合(A社、B社で違いが無い)
従事している業務が旧A社と旧B社で異なる場合は、上記基準で判断すれば良いですが、A社も、B社も関係なく同じように働いている場合は、なんらかの客観的な理由で「通常」を決めなければなりません。
- 人数の多い多数派の方を通常の労働者と判断する。
- 人数比が均衡している場合は、所定労働時間の長い方に合わせる。
のが妥当と考えます。所定時間の長い方に合わせるというのは、
「加入していなかったが、加入しなければならないとなり、さかのぼりで保険料の徴収が必要」となると、本人への説明や遡及計算などの負担が重たくなります。
「加入していたが、加入しなくても良かった」より影響度や、従業員への不利益も少なくなると考えます。
「本人が社会保険に絶対に入りたくない」という意思であれば、社会保険への加入漏れか否かのボーダーラインを所定労働時間とするのではなく、所定労働時間が短いB社員の3/4未満を所定労働時間とした、パートタイムの雇用契約を結びましょう。
そもそも、パートタイマーが被保険者になる基準とは?
もともと、パートタイマーが被保険者になる基準が「通常の労働者」の4分の3以上の所定労働時間及び所定労働日数とされたのは、昭和55年6月6日の通達(内かん)がもとになっています。
その内容は
「同種の業務に従事する通常の就労者の所定労働時間及び、所定労働日数のおおむね4分の3以上である就労者については、原則として健康保険及び厚生年金保険の被保険者として取り扱う」
とあり、それ以上に比較対象を「正社員」や「契約社員」とするなどといった指定はありません。しかし、
「その認定に当たっては、当該就労者の就労の形態等個々具体的事例に即して判断すべきものであること。」
ともされています。
なお、従来は「おおむね4分の3以上」とありましたが、平成28年10月1日以降の取り扱いは「1週の所定労働時間および1月の所定労働日数が常時雇用者の4分の3以上」となっています。
年金事務所でも解釈には難儀しているようですが、現在は基本的にこの「通常の就労者」とは「正社員」であるとして判断を行っているようです。(ただし明確な通達等がないため、所轄の年金事務所により判断が分かれる可能性あります。)
そもそも、合併時に所定労働時間が統一できていないことが問題
今回のケースでは、パートの所定労働時間の問題以前に、「旧A社の社員と旧B社の社員で所定労働時間が異なるにも関わらず、同じ事業所で、同じ仕事に従事していること」が問題です。(職種が異なる、雇用形態が異なるなどの理由で、所定労働時間が異なるケースであれば、「通常の労働者」は特定できる)
今回のケースの場合だと、本来は合併時に、
- 所定労働時間を揃える
(A社、B社のいずれかでも構わないし、新しい時間にしても良い) - 同じ仕事をしているなら「同一労働同一賃金も」考え、賃金体系も統一させる。
- 合併にともない、A社、B社それぞれで、従業員説明会を開催し、個別に労働条件の結び直しをする。
ということをしなければなりません。
そもそも、合併時の労働条件の統一が大変
さらっと「合併時に気を付けるポイント」を書きましたが、実は合併の準備と実行は簡単なものではありません。特に人件費予算が厳しく調整給の大盤振る舞いが出来ないときが、大変で知恵の見せどころです。
※いろいろテクニックはあるのですが、個別具体的すぎて、記事では書けません。すみません。。。
一般的には
- 所定労働時間が増える場合:個別の説明や、恒常的に所定内の時間外労働を命じる形で対応する
- 賃金が下がる場合は、調整給の支給で激変緩和措置を置く。
ということで、処理をしていきます。
合併時の総額人件費はどうなっている?
しかし、合併する場合、潤沢に予算があるとは限りません。そのため、合併にあたっては総額人件費の配慮が必要です。
人件費予算が厳しい場合、
- 賃金を統一した結果、賃金が上がってしまう人にどう調整給を掛けるのか?
(合併するだけで、給料が上がっていいの?) - 所定労働時間を減らしたが賃金は据え置きした場合、時間単価が上がってしまうが、本当にいいの?
というところまで、考えて準備をしていくことが必要です。
部門や会社を「切った貼った」で済む問題ではないのも注意が必要ですね。
特に経営企画部門の方は「合併後のシナジー効果」なんていうパワーポイントを作っていても、現場で合併による処遇の不満が出たり、大量離職が発生すると、シナジーもへったくれもなくなってしまいます。
「そういった問題は、現場や人事で対応するもの」と思うかもしれませんが、処遇の統一や合併に関わる予算編成は、現場や人事には権限がなく対応できません。
全体を企画される立場の方には、先読みの視座と想像力を持っていただき、合併を計画するにあたっては、今回のケースのような事象も想定して検討いただきたいと思います。
合併の計画をきちんとやらないと、冒頭の「大人の事情」になってしまい、合併の効果がなかなか現れなくなるのです。
昭和55年6月6日の”内かん”
ちなみに、前述の”内かん”は以下の内容となっています。
http://www.mhlw.go.jp/shingi/2009/05/dl/s0526-6q.pdf
昭和55年6月6日の内かん(引用)
(昭和55年6月6日保険局保険課長、社会保険庁健康保険課長、社会保険庁厚生年金保険課長)【パート労働者への厚生年金の適用】
拝啓時下益の御清祥のこととお慶び申し上げます。健康保険及び厚生年金保険の事業運営に当たっては平素から格段のご尽力をいただき厚くお礼申し上げます。
さて、短時間就労者(いわゆるパートタイマー)にかかる健康保険及び厚生年金保険の被保険者資格の取扱いについては、各都道府県、社会保険事務所において、当該地方の実情等を勘案し、各個別に取扱基準を定めるなどによりその運用が行われているところです。
もとより、健康保険及び厚生年金保険が適用されるべきか否かは、健康保険法及び厚生年金保険法の趣旨から当該就労者が当該事業所と常用的使用関係にあるかどうかにより判断すべきものですが、短時間就労者が当該事業所と常用的使用関係にあるかどうかについては、今後の適用に当たり次の点に留意すべきであると考えます。
1、常用的使用関係にあるか否かは、当該就労者の労働日数、労働時間、就労形態、職務内容等を総合的に勘案して認定すべきものであること。
2、その場合、1日又は1週の所定労働時間及び1月の所定労働日数が当該事業所において同種の業務に従事する通常の就労者の所定労働時間及び所定労働日数のおおむね4分の3以上である就労者については、原則として健康保険及び厚生年金保険の被保険者として取り扱うべきものであること。
3、2に該当する者以外の者であっても1の趣旨に従い、被保険者として取り扱うことが適当な場合があると考えられるので、その認定に当たっては、当該就労者の就労の形態等個々具体的事例に即して判断すべきものであること。
なお、貴管下健康保険組合に対する周知方につきましても、併せて御配意願います。以上、要用のみ御連絡申し上げます。
敬具
昭和55年6月6日
厚生省保険局保険課長川崎幸雄
社会保険庁医療保険部 健康保険課長 内藤 洌
社会保険庁年金保険部 厚生年金保険課長 片山 巌
都道府県民生主管部(局)保険課(部)長殿
労働基準法に関連するその他の原則とは?
法律の”そもそも”に立ち返る「技能者」「寄宿舎」「法定帳簿」について、労働基準法などでどのような定めがあり、労務管理で配慮しなければならないのでしょうか?
職場の問題が解決しない
「やりかた」の前に「ありかた」労働トラブルの発生や、あるべき姿が定まらない原因は「根本の考え方が揃っていない」ことも理由の一つです。これまでの経験や判断を振り返り、これからの自社/部門のあるべき姿を発見・共有する職場学習型の研修をご存知ですか?