従業員から「出るとこに出てやる」と言われました。労働紛争になった場合は、裁判所で裁判になるのでしょうか?

普段から仕事ができず、任された仕事も放置したままで、クレームになると「そんなつもりはない」「お客さんには、ちゃんと言ったつもりだ」と言い訳をし、机の引き出しには菓子しか入っておらず、菓子を食べながら同僚の悪口を他の同僚に吹いて回り、周囲の仕事の邪魔をすることが仕事のような従業員でした。

挙句の果てに「コロナ自粛」と称して、勝手に在宅勤務を始める暴挙にでたので、出社を命じ、勤務態度を改めるよう毅然と申し入れたら、冒頭のセリフを吐いて会社に来なくなりました。今後、労働紛争となった場合は、裁判所で裁判をすることになるのでしょうか?

いろいろな紛争解決の方法があります

これはご愁傷様でした。権利には義務が伴いますし、会社は仕事をするところで「おカネを貰える遊び場」ではないのですが、そういったことが分からない人も一定数いるのは残念です。

労働紛争を解決する方法として、裁判所の裁判(いわゆる訴訟)以外にも紛争解決の方法があります。ザックリ分けると

  • 裁判所での労働紛争の解決手続き
  • 裁判所外での労働紛争の解決手続き

それと

  • 「個別」の労働紛争の解決
  • 「集団」の労働紛争の解決

があります。裁判や訴状(あっせんの場合「申立書」)に注目しがちですが、「集団」か「個別」かによって、使える解決手段が異なりますので、誰が、何を言ってきているのかを冷静に確認することが重要です。

冷静な判断をするために専門家を使う

訴状だの調停機関から書類が届くと、頭の中が真っ白になり、仕事が手につかなくなります。冷静であるために、紛争の専門家である弁護士や、労働紛争であれば特定社会保険労務士がいますので、本来の仕事に集中し、冷静な判断をするためにも専門家を使ってください。
私自身も経営者の端くれですので、いろいろな理由で何度か訴えられた/訴えたことがありますが、寝ても覚めても、シャンプーしていても訴訟のことで頭いっぱいになります。まぁ、そんなものです。生きていたら色々なことがありますよ。

裁判所での労働紛争の解決手続き

ますは、裁判所の紛争解決の手続きを見ていきましょう。「金額」や「証拠の精度」などに応じて様々な解決の方法があります。

調停@簡易裁判所

調停@簡易裁判所

話し合いによる円満な解決が趣旨

■選択のポイント
・法律の専門家でなくても申立てが容易
・必ずしも詳細な主張書面や証拠書類の提出は不要
・事案の軽重は問わない

調停は以下の点が特徴です。

  • 請求額に制限がない
  • 期日の回数にも制限が無い
  • 非公開の手続き
  • 労働関係の専門家等の調停委員2名以上が手続きに関与する
  • 調停が成立しない場合、裁判所が決定を行う可能性がある
調停の待合室から見える、霞が関のビル群を見ると切ない気持ちになる

訴えた(申し立てた)方は「申立人」と呼ばれ、訴えられた(相手)方は「相手方」と呼ばれます。調停委員のいる部屋に交代交代で入って、自分の主張を調停委員に伝えていく流れになります。それぞれ「申立人の待合室」と「相手方の待合室」に直行し、調停委員が呼びに来るのを待ちます。(相手の主張のときも待合室に戻されるので、部屋と待合室を数回行き来します。)

待合室は他の人もいますので「オトウサン、カシタオカネ、カエシテクレナイ」という片言の日本語を話す人がいたり、「父さんが生きていたときは、兄さんも優しかったのに。あの嫁がきっと惑わせたのよ。」とか、街中の喫茶店で聞けない会話を耳にしながら「自分もこの一人なんだよな。。」と思いながら、窓から見える霞が関のビル群を見るのは、なかなか切ないです。

少額訴訟@簡易裁判所

少額訴訟@簡易裁判所

1回の審理で行う迅速な手続きが趣旨

■選択のポイント
・法律の専門家でなくても申立てが比較的容易
・訴え定期時に訴状のほか証拠書類の提出が必要
・複雑困難な事案はなじまない

少額訴訟は以下の点が特徴です。

  • 60万円以下の金銭請求に限定される
  • 原則1回の期日で審理を終了し、直ちに判決となる
  • 公開の手続
  • 専門的知識を有する司法委員が手続きに関与
  • 話合い(和解)や支払い猶予(分割払等)の判決も可能
  • 被告の希望や事案の内容によっては、通常訴訟に移行できる
  • 控訴はできない(簡易裁判所への異議申立てのみが可能)

労働審判@地方裁判所

労働審判@地方裁判所

3回以内の期日で実情に即した柔軟な解決が趣旨

■選択のポイント
・的確な主張・立証のため弁護士に依頼することが望ましい
・申立時に詳細な申立書のほか証拠書類の提出が必要
・争点が複雑な事案や膨大または緻密な立証が要求される事案はなじまない

労働審判は以下の点が特徴です。

  • 簡易裁判所(140万以下)、地方裁判所(140万超)
  • 原則3回以内の期日で審理
  • 非公開の手続き
  • 労使双方の専門家である労働審判員2名が手続きに関与する
  • 適宜調停を行い、まとまらなければ最終的には労働審判になる
  • 労働審判に異義が出るなどの場合は訴訟に移行する

ちなみに、労働審判制度は2006年に始まった制度であり、現在は通常の訴訟と同数程度の件数が発生しています(2017年は通常訴訟が3,527件、労働審判は3,369件)。https://www.jil.go.jp/kokunai/statistics/timeseries/html/g0703_01.html

訴訟@簡易/地方裁判所

訴訟@簡易/地方裁判所

「判決によって解決すること」が趣旨

■選択のポイント
・的確な主張・立証のため弁護士等に依頼することが望ましい
・厳格な手続きの下、裁判所の判断を求める事案になじむ

訴訟は以下の点が特徴です。

  • 法廷での公開の手続となる。
  • 厳格な手続きによる紛争解決の最終手段(主張や証拠にもとづいた判断)
  • 話合い(和解)を試みることもある

裁判所「外」での労働紛争の解決手続き

あっせん@都道府県労働局

裁判所の他に「あっせん」という制度があります。
これは、個別労働関係紛争の解決の促進に関する法律(平成13年法律第112号)により、平成13年10月から実施された、裁判とは異なる紛争解決の仕組みです。

ちなみに「集団の紛争」の場合は、「個別」の労働紛争の解決手段である「あっせん」の対象外となり、労働組合の団体交渉となります。

あっせんの特長

あっせんとは、中立の立場の者が間に入って、双方の話し合いが円滑に進むように調整するもので、紛争当事者の話し合いが前提となった制度になります。そのため、以下の特長があります。

  1. 和解を目指す
    あくまでも双方の和解を前提としており、双方とも和解を前提として臨むことが大切です。
  2. 譲歩が必要
    双方がお互いにどこまで譲歩できるかがポイントとなります。また、対案を出すことも可能です。
  3. 解決の方法はあくまでも「話し合い」
    あっせんは、訴訟のように双方の主張をぶつけて判断を求めるものではありません。
  4. 訴訟の前段階でもない
    訴訟によらず解決を求める制度なので、訴訟に備えての相手の出方を探る機会ではありません。
  5. 話し合いなので、判断が下されることはない
    あっせん委員が双方の主張を聞き、客観的なコメントを述べます。しかし、事実の断定や判決を行うことはありません。事実関係に双方の主張に食い違いがある場合には、主張の食い違いはそのままの状態で、両者の調整を行います。
    (事実無根の主張もできてしまう。)

あっせんのしくみ

あっせんは裁判所での紛争解決と異なり、以下の特長があります

  • 手続が裁判に比べて、迅速かつ簡便。非公開で行われる。
  • 紛争当事者間で合意したあっせん案は、民法上の和解契約の効力を有する。
  • あっせん申請時に提起があったものとみなす「時効の中断」の効果がある
  • 労働者があっせんを申請したことによる不利益な取扱いは法律で禁止。
  • 紛争当事者の一方が参加の意思がないことを表明したときは、手続は打ち切りとなる。

あっせんの申し立てがされてきたら、会社側にも非があるのか、譲歩できる内容がありそうか?を判断し、あっせんを受けるか拒否をするかを回答していきます。
あっせんを申し立てるにあたって証拠は不要ですので、あまりにも事実無根な内容であれば、あっせんを拒否して労働審判や訴訟に進むことも一つの選択肢となります。

あっせん」はどこで行うのか

ちなみに「あっせん」は様々な機関で提供されており、それぞれで進め方や体制が異なります。

  • 都道府県労働局(厚労省の管轄)が行う「あっせん」
    弁護士、大学教授、社会保険労務士などの労働問題の専門家が担当。
  • 都道府県労働委員会(都道府県が管轄)が行う「あっせん」
    費用は無料。 •公益側代表(学識経験者等)、労働者側代表(労働組合役員等)、使用者側代表(会社経営者等)で構成される。
  • 労働団体や弁護士、社労士などが行う「あっせん」
    費用は有償。

「労働委員会」という機関でも「あっせん」は行われていますが、東京・兵庫・福岡では行われていません。実務では「各都道府県の労働局」のあっせんを利用します。いろいろな機関で「あっせん」をしているので分かりにくいのです。とりあえず「労働局」で行うと覚えておくのが無難です。

■他機関の運用状況比較(中央労働委員会)

https://www.mhlw.go.jp/churoi/assen/assen_04.html

あっせんの「申立て」から「終了」まで

今回は紛争解決の手段のご紹介ですが、あっせんの「申立て」から、終了までの流れをご紹介しています。

裁判所「外」の労働紛争の解決手続き「あっせん」のながれ

(続き)

個別労働紛争である「あっせん」は具体的にどのように「申立て」が行われ、どのような流れを経て終了するのでしょうか?また、あっせんが選ばれる背景、相手方の対応方法についてご紹介します。

紛争解決は、労働問題を得意とする当社へご相談ください

あっせんでは、事象を整理し自分たちの主張を理路整然と伝えていくことが必要です。
当社は、コンサルティング会社がルーツの社労士法人です。当サイトのような労働トラブルの相談例のように、白黒はっきりしない事象に対して筋道を立てて整理し、どのように相手に主張すれば良いか助言することを得意としています。

また、社会保険労務士法人でも、労働基準法、労働契約法を得意とし、労働相談を中心にサービスを提供しています。
また、理論だけでも紛争は解決できません。実績や実体験からしか、お伝えできない知恵やノウハウも有していますので、労働紛争の解決についてもご相談ください。

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