「労働基準法」とは労働条件に関する最低基準を定めています。この記事では「労働基準法」について、どのような定めがあり、労務管理で配慮しなければならないのか、労働基準法の原則的な考え方、労働者の定義などについて説明していきます。

労働基準法第1条(労働条件の原則)

労働条件の原則

労働基準法は昭和22年に制定され、労働条件に関する最低基準を定めています。そもそも労働基準法はなぜ制定されているのでしょうか?

労働基準法(以下「労基法」)は、一人でも労働者(いわゆる従業員ですね。)を使用する使用者(「会社」と考えると分かりやすいです。)が守らなくてはいけない最低限の労働条件を定めた法律です。

本来は、契約は当事者の自由な意思によって決定できる(「契約自由の原則」と言います)ので、企業と従業員がどのような労働条件を定めるかは自由なのですが、

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労働者
1日16時間も働いて、これだけの給料だと生活が出来ません、贅沢は言いませんが、お給金をもう少し上げてもらえませんか?
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悪い社長
嫌だったら、辞めてもらっていいんだよ。代わりはいっぱいいるし。ぐへへ。

となってしまいます。

企業と従業員の力の差を考えると、企業が有利な立場で契約できてしまいます。そこで、労基法により、契約自由の原則に一定の規制を掛けて従業員を保護しているのです。

労働条件の原則

第一条 労働条件は、労働者が人たるに値する生活を営むための必要を充たすべきものでなければならない。

② この法律で定める労働条件の基準は最低のものであるから、労働関係の当事者は、この基準を理由として労働条件を低下させてはならないことはもとより、その向上を図るように努めなければならない。

「人たるに値する生活」

第1項の「人たるに値する生活」とは日本人の標準的な家族の生活を基準としたものであり、第2項の「この基準を理由として労働条件を低下させてはならない」とありますから「法律の範囲内だから条件下げておくね!」というのはNGということになります。

また、行政通達によると働く本人だけでなく家族の生活も含まれていることとなっています。

行政通達(昭23.9.13 発基17号)

人たるに値する生活を営むためには、その標準家族の生活をも含めて考えること。

では、「標準家族」とは何か?ということが問題になりますが。同じく行政通達では

行政通達(昭23.11.27 基発401号)

標準家族の範囲はその時その社会の一般通念によって理解さるべきものである。

となっており、その時代・時代の価値観や常識感によって決まっていくということです。なので、三世代で兄弟もたくさんいる大家族の時代と、少子高齢化の核家族の時代とではその範囲が異なるのですね。

「労働条件の低下」

第2項の「労働条件の低下」についても行政通達があります。

行政通達(昭22.9.13 発基17号、昭63.3.14 基発150号)

労働条件の低下がこの法律の基準を理由としているか否かに重点を置いて判断するものであり、社会経済情勢の変動等 他に決定的な理由がある場合には本条に抵触するものでないこと。

一旦、上がり切った労働条件は一切下げられないという下方硬直性を持たせているのではなく、時代の変化によって労働条件の低下はあり得るということです。

労働基準法第2条(労働条件の決定)

労働条件の決定

労働条件の決定

第二条 労働条件は、労働者と使用者が、対等の立場において決定すべきものである。
② 労働者及び使用者は、労働協約、就業規則及び労働契約を遵守し、誠実に各々その義務を履行しなければならない。

労働基準法第3条(均等待遇)

均等待遇

均等待遇

第三条 使用者は、労働者の国籍、信条又は社会的身分を理由として、賃金、労働時間その他の労働条件について、差別的取扱をしてはならない。

第3条の均等待遇は、労働者の「国籍」「信条」「社会的身分」という非常に限定的なステータスに対して差別的な取扱いを禁止しています。
よって、これ以外の部分で差が生じたとしても、均等待遇に反することはありません。(男女雇用機会均等法など別の法律にもとづく差別を除く)

ちなみに、信条や社会的身分も行政通達で定義されおり、時給/月給、パート/アルバイト などの雇用の区分とは異なります。

行政通達(昭23.9.13 発基17号)

信条とは、特定の宗教的もしくは政治的信念をいい、社会的身分とは生来の身分をいうこと。

なお「入社前」は「労働者」ではありません。労働基準法で差別を禁止されているのはあくまでも「雇入れ後」の「労働者」に対する取扱いのみです。

労働条件とは、どの部分を指すのかということは行政通達で明示されており、給与以外の部分についても労働条件に含まれることになっています。

行政通達(昭23.6.16 基収1365号、昭63.3.14 基発150号)

その他の労働条件には解雇、災害補償、安全衛生、寄宿舎等に関する条件も含む趣旨である。

労働基準法第4条(男女同一賃金の原則)

男女同一賃金の原則

男女同一賃金の原則

第四条 使用者は、労働者が女性であることを理由として、賃金について、男性と差別的取扱いをしてはならない。

労働基準法が禁止するのは、「賃金について」の取扱いにとどまっています。採用・配置・昇進・教育訓練などの差別の結果生じる賃金の差は、労働基準法ではなく、男女雇用機会均等法によって規制されています。

第4条の趣旨や女性、差別的な取扱いについても通達が出されています。

行政通達(昭22.9.13 発基17号、平9.9.25 基発648号)

本条の【趣旨】は、わが国における従来の国民救済の封建的構造のため、男性労働者に比較して一般に低位であった女性労働者の社会的、経済的地位の向上を賃金に関する差別的待遇の廃止という面から、実現しようとするものであること。

行政通達(昭22.9.13 発基17号、平9.9.25 基発648号)

【女性であることを理由として】とは、労働者が女性であることのみを理由として、あるいは社会通念として又は当該事業場において女性労働者が一般又は平均的に能率が悪いこと、勤続年数が短いこと、主たる生計の維持者ではないこと等を理由とすることの意であり、これらを理由として、女性労働者に対し賃金に差別をつけることは違法であること。

行政通達(昭22.9.13 発基17号、昭25.11.22 婦発311号、昭63.3.14 基発150号、平成9.9.25 基発648号)

【差別的取り扱い】職務、能率、技能、年齢、勤続年数等によって、賃金に個人的差異のあることは、本条に規定する差別的取扱いではないが、

例えばこれらが同一である場合において、男性はすべて月給制、女性はすべて日給制とし、

男性たる月給者がその労働日数の如何にかかわらず月に対する賃金が一定額であるに対し、女性たる日給者がその労働日数の多寡によってその月に対する賃金が前記の男性の一定額と異なる場合は法第4条違反であること。
なお、差別的取扱いをするとは、不利に取扱う場合のみならず有利に取扱う場合も含むものであること。

労働基準法第5条(強制労働の禁止)

強制労働はダメ・ダメ

強制労働の禁止

第五条 使用者は、暴行、脅迫、監禁その他精神又は身体の自由を不当に拘束する手段によつて、労働者の意思に反して労働を強制してはならない。

使用者が労働者に強制労働をさせることを禁止しています。労働を強制する使用者と強制される労働者の間に労働関係があることが前提となるが、必ずしも労働契約により成立していることを要求するものではなく、事実上労働関係が存在すると認められる場合であれば足りるとされています。(昭22.9.13 発基第17号、昭22.3.2 基発第381号、昭63.3.14 基発第150号・婦発第47号)

「暴行」とは

刑法第208条に規定する暴行であり、労働者の身体に対し不法な自然力を行使することをいい、殴る、蹴る、水をかける等はすべて暴行であるが、必ずしも傷害を伴う必要はなく、痛みを与えることも要しない。

「脅迫」とは

刑法第222条に規定する脅迫であり、労働者に恐怖心を生ぜしめる目的で本人又はその親族の生命、身体、自由、名誉又は財産に対して、脅迫者自ら又は第三者の手によって害を加うべきことを通告することをいうが、暗示する程度でも足りる。

「監禁」とは、

刑法第220条に規定する監禁であり、一定の区画された場所から脱出できない状態に置くことによって労働者の身体の自由を拘束することをいい、必ずしも物質的障害をもって手段とする必要はない。

「精神又は身体の自由を不当に拘束する手段」とは

精神の作用又は身体の行動が何らかのかたちで妨げられる状態を生じさせる方法をいう。

「不当」とは

社会通念上是認し難き程度の手段の意であり、たとえ合法的なものであっても不当なものとなることがあり、例えば賃金との相殺を伴わない前借金が周囲の具体的事情により労働者に明示又は黙示の威圧を及ぼす場合は該当する。

労働基準法第6条(中間搾取の排除)

中間搾取の排除

中間搾取の排除

第六条 何人も、法律に基いて許される場合の外、業として他人の就業に介入して利益を得てはならない。

労働者の労働関係の開始・存続に関与して、業として中間搾取を行う行為を禁止するっことが書かれています。歴史的な背景をたどると、明治時代は労働関係の成立は、口入屋、桂庵、募集人、労務供給業者等を通じて行われ、不当な賃金搾取やその他の非人道的な悪習が伴っていました。(蟹工船や女工哀史の世界観です。)

戦後になって(昭和22年)、職業安定法が制定され、職業紹介法の内容が整備強化されましたが、職業安定法は労働ブローカー、労働ボスが労働者の就職に介入して利益の授受あるいは親分子分間の賃金のピンハネ等は取締対象ではありませんでした。あくまで本条は、職業安定法と並んでかかる中間搾取を正面から禁止しようとするものです。(前述のピンハネの禁止です。)

行政通達(昭23.3.2 基発第381号)

【業として】とは、同種の行為を反覆継続することをいう。1回の行為であっても、反覆継続する意思があれば十分であり、主業としてなされると副業としてなされるか問わない。

行政通達(最高裁第一小法廷決定 昭30年(あ)第2327号 岡本春一職安法・労基法違反等事件 昭31.3.29 同旨 昭23.3.2 基発第381号、昭63.3.14 基発第150号、平11.3.31 基発第168号)

【他人の就業に介入して】とは、「労働関係の当事者間に第三者が介在して、その労働関係の開始、存続等について、何らかの因果関係を有する関与をなす場合」をいう。
したがって、労働関係の明確なものについては問題はないが、不明確なもの(例えば接客業等)については、第9条の労働者であるか否かをまず考えなければならない。

裁判例(昭23.3.2 基発第381号、仙台高裁判決 昭24年(を)第5号 曽我ウメ中間搾取違反事件 昭24.6.29 )

【利益】とは「手数料、報償金、金銭以外の財物等如何なる名称たるとを問わず、又有形無形たるとを問わない。」また、この利益は、介入する行為との因果関係さえあれば、「使用者より利益を得る場合のみに限らず、労働者又は第三者より利益を得る場合をも含む。」(前掲通達)と考えられる。この点については、裁判例でも、「利益を得るとは該行為により金銭その他の財物を得ることをいい、仮令それが被告人より請求したると否と又その名義如何や事実上の損失如何に拘らざるものと解するを相当とする。」としている。

労働基準法第7条(公民権行使の保障)

公民権行使の保障

公民権行使の保障

第七条 使用者は、労働者が労働時間中に、選挙権その他公民としての権利を行使し、又は公の職務を執行するために必要な時間を請求した場合においては、拒んではならない。但し、権利の行使又は公の職務の執行に妨げがない限り、請求された時刻を変更することができる。

日本は憲法の下で民主主義が保障されています。その中で、仕事だから公民権が行使できないとなると問題になりますので、公民権の行使を保障する条文があります。

労働基準法で保障する公民権とは、

  1. 衆議院議員その他の議員、労働委員会の委員、陪審員、検察審査員、裁判員、法令に基づいて設置される審議会の委員としての職務等、国または地方自治体の公務に民意を反映してその適性を図る職務
  2. 訴訟法上の承認としての出廷、労働委員会の承認等国又は地方自治体の公務の公正妥当な執行を図る職務
  3. 公職選挙法第38条第1項の選挙立会人等、地方公共団体の公務の適正な執行を監視するための職務等

が挙げられており、単純な労務の提供を主たる目的とする職務は含まれないとされています。(昭63.3.14 基発第150号・婦発第47号、平17.9.30 基発 第0930006号)

普段なじみのない職務ばかりですが、裁判員に参加することは公民権となっており、労働者本人が望むならば、労働よりも優先されるということです。

労働基準法第9条(定義(労働者))

そもそも「労働者」って誰なの?

定義(労働者)

第九条 この法律で「労働者」とは、職業の種類を問わず、事業又は事務所(以下「事業」という。)に使用される者で、賃金を支払われる者をいう。

従業員を一人でも使用する会社は、原則として労基法が適用されます。また、労基法は「すべての従業員」が対象となります。なので、正社員だけでなく、契約社員、派遣社員、パート、アルバイトなど、雇用形態を問わず労基法の適用を受けます。

労働基準法第10条(定義(使用者))

そもそも「使用者」って社長だけ?

定義(使用者)

第十条 この法律で使用者とは、事業主又は事業の経営担当者その他その事業の労働者に関する事項について、事業主のために行為をするすべての者をいう。

「事業主又は事業の経営担当者その他その事業の労働者に関する事項について、事業主のために行為をするすべての者」とされています。
労働者を雇用して事業を行う事業主はもとより、事業主とともに経営を担当する者(取締役など)や労務担当者・人事担当者・工場長などが含まれます。

労働基準法第11条(定義(賃金))

定義(賃金)

定義(賃金)

第十一条 この法律で賃金とは、賃金、給料、手当、賞与その他名称の如何を問わず、労働の対償として使用者が労働者に支払うすべてのものをいう。

賃金の実態は、各社各様ですので「具体的に、ここからここまでが賃金」とされていないのが特徴です。使用者が労働者に支払うすべてのものとしていますので、旅館や料理店で客から受け取るチップは賃金になりません。

ちなみに、2021年5月時点では、ウーバーイーツの配達員ような宅配デリバリーの仕事をしていてもらえる対価は「報酬」であり「賃金」ではありません。
なぜならば、ウーバーと配達員は雇用契約を締結していません。雇用契約を締結していない以上労働力の提供もなければ、労働の対価である賃金の支払いもありません。

ウーバーイーツは、あくまでも個人事業主と、お店と、注文者をマッチングするサービス提供者であり、配達員は個人事業主になり、配達して貰える金銭は「労働の対価」ではなく成果に対する「報酬」(売上と言った方が分かりやすいかも。)となります。(いわゆる「赤帽さん」と同じ扱いになります。)

労働基準法第12条(定義(平均賃金))

定義(賃金)

第十二条 この法律で平均賃金とは、これを算定すべき事由の発生した日以前三箇月間にその労働者に対し支払われた賃金の総額を、その期間の総日数で除した金額をいう。ただし、その金額は、次の各号の一によつて計算した金額を下つてはならない。

一 賃金が、労働した日若しくは時間によつて算定され、又は出来高払制その他の請負制によつて定められた場合においては、賃金の総額をその期間中に労働した日数で除した金額の百分の六十

二 賃金の一部が、月、週その他一定の期間によつて定められた場合においては、その部分の総額をその期間の総日数で除した金額と前号の金額の合算額

② 前項の期間は、賃金締切日がある場合においては、直前の賃金締切日から起算する。

③ 前二項に規定する期間中に、次の各号のいずれかに該当する期間がある場合においては、その日数及びその期間中の賃金は、前二項の期間及び賃金の総額から控除する。

  1. 業務上負傷し、又は疾病にかかり療養のために休業した期間
  2. 産前産後の女性が第六十五条の規定によつて休業した期間
  3. 使用者の責めに帰すべき事由によつて休業した期間
  4. 育児休業、介護休業等育児又は家族介護を行う労働者の福祉に関する法律(平成三年法律第七十六号)第二条第一号に規定する育児休業又は同条第二号に規定する介護休業(同法第六十一条第三項(同条第六項において準用する場合を含む。)に規定する介護をするための休業を含む。第三十九条第十項において同じ。)をした期間
  5. 試みの使用期間

④ 第一項の賃金の総額には、臨時に支払われた賃金及び三箇月を超える期間ごとに支払われる賃金並びに通貨以外のもので支払われた賃金で一定の範囲に属しないものは算入しない。

⑤ 賃金が通貨以外のもので支払われる場合、第一項の賃金の総額に算入すべきものの範囲及び評価に関し必要な事項は、厚生労働省令で定める。

⑥ 雇入後三箇月に満たない者については、第一項の期間は、雇入後の期間とする。

⑦ 日日雇い入れられる者については、その従事する事業又は職業について、厚生労働大臣の定める金額を平均賃金とする。

⑧ 第一項乃至第六項によつて算定し得ない場合の平均賃金は、厚生労働大臣の定めるところによる。

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