Q:当社では「専属社員」(その支店のみ勤務し、他支店への転勤がない社員)という制度があります。
しかし、人員の流動性を改善するために「専属社員」制度を廃止し、転居を伴わない範囲で、同一エリアの支店に移動する「地域社員」制度を導入しようと考えています。
制度を変更するにあたって就業規則の一部変更が必要になるのですが、以下の表記で問題ないでしょうか?
変更前 | 変更後 | |
第○条 | 2.専属社員とは、所定労働時間勤務する者のうち、指定する支店のみで勤務をする者をいう | 2.地域社員とは、所定労働時間勤務する者のうち、勤務地を限定する者をいう |
就業規則は実態に合わせて改訂するものであり、記載内容を変更すること自体は問題はありません
就業規則は実態に合わせて改訂するものであり、記載内容を変更すること自体は問題はありません。
★労働条件の変更は労働協約か個別合意が必要
しかし、いままで
- 専属社員:転居「無」、転勤「無」 という従業員
- 地域社員:転居「無」、転勤は「有」という従業員
になり、従業員にとって負担が増える形で労働条件が変更することになります。
そのため、専属社員と言われる人に対しては、労働条件の変更の合意を取る必要があります。
合意を取るためには
- 労働組合と労働協約を締結する
- 個別に労働条件を変更する
いずれかの手続が必要になります。就業規則を変更したからといって、一方的に変更することは望ましくありません。
※「労働協約」と「労使協定」の違いは、別の機会にご説明します。
制度を導入した以上、例外は認めない
上記手続きを省略し、同意を得られない場合は、地域社員と称するが、転勤させることができない「実質専属社員」が発生してしまいます。
規程上、「地域社員は転居は発生しないが、転勤がある」と書いているにも関わらず、
異動させることができない「地域社員」が発生してしまうと、既得権が発生しますし、はた目から見ると、「転勤をしなくてもいい人がいるのは不公平だ」と不満が発生し、職場の規律の乱れが出てきます。
そもそも、人材の流動性を高めることが趣旨で、専属社員を廃止し制度を改訂したのですから、地域社員となった以上、やむを得ない事情が無い限り、すべての地域社員に順次転勤を命じていくことになります。
※「やむを得ない事情」とは、どういうことかについては、別の機会にご説明します。
就業規則の表記方法の正確に
就業規則の表記については
「2.地域社員とは、所定労働時間勤務する者のうち、勤務地を限定する者をいう」
とありますが、これでは、どこまで限定するのかが分からず、従来の「支店限定」とも解釈できます。
より正確に記載するのであれば
「2.地域社員とは、所定労働時間勤務する者のうち、”転居の伴わない範囲で”勤務地を限定する者をいう」
など、どいう範囲を具体的に書きましょう。
(「所属するエリアの範囲内で」など、会社ごとに書き方は異なります。)
経営者・人事担当者など、人事をつかさどる者として忘れたくないこと
このような制度を導入すると、必ず
- 「あの人に転勤をお願いするのは、気の毒だから」とか
- 「この人を転勤させると、我が支店の業務が回らなくなるので何とかしてほしい」
という意見が出てきます。
しかし、その圧力に折れて、人事が決めたルールを、人事担当みずからが例外を作ることはあってはなりません。
「仕方ない」というかもしれませんが、それは、運用できるルールを経営陣に提案できなかった人事の責任です。
人事担当者が「仕方ない」いってルールを曲げることは、ルールの順守と秩序をつかさどる者の発想としては適切ではありません。裁判所が「かわいそうだから」といって、ルールを変えては法治国家ではないですよね。。
やむを得な事情があり、経営判断として例外を作ることはあるかもしれませんが、人事担当者が例外を作ることを率先して行うのではなく、毅然とした態度でルールにもとづき執行するようにしましょう。
そもそも「就業規則」の原則とは?
法律の”そもそも”に立ち返る「就業規則」について、労働基準法などでどのような定めがあり、労務管理で配慮しなければならないのかなど、就業規則の作成や周知について、何に配慮しなければならないのでしょうか?
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