「デートなので帰ります」という社員がいます。会社として繁忙期でみんな残業をしているのに、デートを理由に残業しないというのはどうも釈然としません。

また、残業をしている社員が「なぜ、あの人だけ帰れるの??」と不満を持っています。会社として残業せずに帰ろうとする社員に対して、残業するよう言えるのでしょうか?

本人曰く、「今日のデートでプロポーズするつもりだ。プロポーズ出来なかったら、課長が責任取ってくれるのか?」と詰め寄られています。

A:雇用契約の内容により結論が異なります
「雇用契約書」や「労働条件通知書」を確認しましょう

雇用契約書に「時間外労働を命じることがある」と書かれている場合は、残業を命じることが出来ます。一方で、「時間外労働を命じない」と書かれている場合は、残業を命じることはできません。

しばしば、「まずは、社員さんに状況を説明し、よく話し合って…」ということを聞きますが、正しいやりかたではありません。

正しい判断の仕方は、(1)最初に、どんな雇用契約となっているか確認する。(2)次に、その契約通りだと支障があるので、会社と社員さんとで話し合い、残業する・しないの前提を変更するかどうかを決める。が正しい流れです。

そもそも残業命令(時間外労働)は、使用者(会社と上司)が雇用契約の内容にもとづき命じることによって行うものです。

雇用契約書に「時間外労働を命じることがある」と記載されている以上、会社は雇用契約にもとづき、時間外労働を命じることができ、従業員は時間外労働の命令を拒否することはできません。

「日立製作所武蔵工場事件 H3.11.28最高裁」

「日立製作所武蔵工場事件 H3.11.28最高裁」では、残業を命じることができる要件として、以下の3点を明示しました。 

  1. 就業規則の内容に合理性がある
  2. 36協定が正しく締結されている
  3. 雇用契約書に「残業はない」という記載をしていない3点を明示しました。

この判決では、上記の要件の他に、”残業を命じるには「合理的な理由」が必要”としました。
「合理的な理由」とはどの程度かというと、「納期に完納しないと事業に重大な支障を、きたすおそれ」や「業務の内容によりやむをえない場合」などの理由は、いささか概括的・網羅的であることは否定できないが、相当性を欠くといえるほどでもないとしています。

なので、厳密に運用するのであれば、単に「残業を命じることがある」と定めてあるだけでは合理性には足りず、36協定や、就業規則に時間外労働を命じる理由を、出来るだけ具体的に記載すると良いでしょう。

残業(時間外労働)を断った場合は?

残業を命じる権利が会社に発生している以上、社員側が理由なく断った場合は、業務命令違反として懲戒処分の対象とすることもできます。

では、反対に業務命令が無いにも関わらず残業をした場合はどうなるのでしょうか?
業務命令がなければ、時間外労働の指揮命令に対して、労働力を提供し、労働力を提供した対価として賃金を得るという状況ではありませんので、業務命令の無い残業は割増賃金の対象とはなりません。

トラブルになった場合、黙認をしていたのか、認めていなかったのか、判断に迷いますので、時間外労働を命じる記録を残すか、残業申請書を提出してもらうようにしましょう。

時間外労働を命じる場合は、以下の2点について注意が必要です

  1. 「就業規則に従う」とある場合は、就業規則に書かれている内容に従います。また、就業規則と雇用契約書や労働条件通知書の内容が矛盾する場合は、労働者に有利な方が選択されます。
  2. 36協定を締結していることが大前提になります。36協定を締結していない場合は、雇用契約書や労働条件通知書に時間外労働を命じることがあるとなっていても、時間外労働を命じることはできません。

1日8時間、週40時間以上の労働は法違反となり、法定時間を超える労働はできないのが原則になります。(労働基準法第23条)

ただし、労使協定(36協定)を締結し、(1)時間外労働をさせる必要のある具体的事由等を定め、(2)所轄労働基準監督署に届け出ることによって、時間外労働を命じることが出来ます。(労働基準法第36条)

補足(会社側のみなさんへ)

世の中の風潮として残業をしたくない社員の増加と、会社側としても過労にならないよう、残業させない傾向があると感じます。毎日の残業が絶対であるとすることは、今後の採用・必要な社員の勤務継続において、ややマイナスの影響が懸念されますので、当然ながら、会社はワークライフバランスも配慮していきましょう。

また、時間外労働や深夜業が、法律で認められない人もいますので、特殊な事情がないかは注意しましょう。

補足(デート中にプロポーズを予定しているみなさんへ)

「残業する/残業しない」で上司と揉めても、夜のデートは気分良くできません。ましてやプロポーズといった人生の一大イベントであれば、その日は有給休暇をとって、万全を期しましょう。
バツイチの僕が言うのもなんですが、、、

そもそも「残業」とは?

法律の”そもそも”に立ち返る

「残業(時間外労働)」とは始業時刻前、終業時刻以降、もしくは休日に労働することです。労働基準法などでどのような定めがあり、労務管理でどのようなことに配慮しなければならないのでしょうか?

職場の問題が解決しない

「やりかた」の前に「ありかた」

労働トラブルの発生や、あるべき姿が定まらない原因は「根本の考え方が揃っていない」ことも理由の一つです。これまでの経験や判断を振り返り、これからの自社/部門のあるべき姿を発見・共有する職場学習型の研修をご存知ですか?