Q:当社は副業を禁止していますが、原理原則は、就業時間以外は本人の自由であり、会社は制限できないと聞きました。会社は副業を禁止したいのですが、従業員に対し、どのように説明すれば折り合いがつくでしょうか。
また、他社では、どのような条件で、副業を可能としているのでしょうか。例えば、仕事内容や、 報酬を得る手段や、 条件提示など線引きの基準はあるのでしょうか?
回答
A:原理原則と、実際の対応方法とに分けて回答します。
原理原則
メディアでは「副業解禁」と言われていますが、もともと、これまでも禁止などはされておらず、マスコミが勝手に解禁と言っているだけであり、法的に何か変わることはありません。
- 仕事をしている就業時間中
- 仕事をしていない時間外
で分けて考えると分かりやすいです
仕事をしている就業時間中の副業
会社と労働者は雇用契約を締結しており、始業時刻から終業時刻までは、会社の指揮命令下にあり、その時間帯に職務に専念せず、別の仕事をしていることは断固として許されませんし、職務専念違反として懲戒処分の対象になります。
仕事をしていない時間外の副業
一方で、終業時刻から次の始業時刻までは、何をしていても勝手であり、これは憲法でいう「身体の自由」になり、会社は行動を制限することは出来ません。例外的に、翌日の仕事に影響するほど激しい仕事をしたり、経営幹部にも関わらず、同業他社で副業をするようなレベルであればNGとなります。
これらの原理原則を踏まえると
これらの原理原則を踏まえると、終業時刻後に株式投資をして稼ぐ、ウーバーイーツの配達員をする、弁当工場の製造ラインに立って収入を得るということを、会社は禁止することはできません。
注意したいこと
また、以下3点も問題になります。
(1)労働時間の管理の問題
労働基準法上では、労働時間は通算されます。貴社での始業前に4時間新聞配達の労働をしていた場合、貴社で4時間経過した時点で法定労働時間の8時間を超えることになりますので、5時間目から割増賃金が発生します。
(2)社会保険の問題
貴社ともう1社で社会保険の被保険者となる場合(例えば、週30時間×2社はないので、主には貴社でフルタイム勤務をし、別で法人の常勤取締役をするケースです。)この場合は、「健康保険・厚生年金保険被保険者所属選択・二以上事業所勤務届」「2以上の届出」というものをして、社会保険を按分する必要があります。
(3)所得税「甲欄」の問題
所得税の観点からも、労働の収入が多い方でしか源泉徴収が出来ませんので、甲欄なのか乙欄なのかの管理が必要になります。ウーバー配達員(個人事業主)や株投資をしている場合は、個人で確定申告するので、問題にはなりません。あくまでも甲欄が重複する可能性のあるケースは2か所でサラリーマンをしている場合に問題になります。
対応方法
会社としては、副業禁止をしたいということですが、前述のとおり労働時間外の副業を禁止することはできません。とは言っても、滅茶苦茶な副業をすることを抑止したいという気持ちも分かりますので、常識を逸脱した副業を抑止する場合は、以下のように対応します。
(1)服務規定を改定する
服務規定に「会社の名誉を傷つけないこと」と書いておき、違反した場合に懲戒処分とする→副業を禁止する趣旨としては、競合で働いたり、恥ずかしい仕事をすることを禁止するのであって、実家の肉屋を手伝うということはNGではないものと思料します。
(2)届出制にする
副業をする場合は、「許可」ではなく「届出」ということにします。そうすると、会社に言えないやましい仕事や、競合での勤務の場合、届出はしてきませんので、
後日副業していることが発覚した場合は、無届について懲戒処分をすることになります。ただし、副業も雇用契約の場合は、労働時間を通算することになりますので、「副業は管理するが、時間外労働は把握しない」というのは筋が通りにくくなります。
(3)そもそも把握しない
届出制で副業を会社が把握・管理した瞬間、労働基準法の労働時間の通算問題が出てきてしまいますので、業務時間外に従業員が何をしているのかについては、会社として個人の私生活に介入しないということで、そもそも、見もせず聞きもせず。とするのも一つの方法です。
まとめ
従業員さんから質問があった場合は、「業務時間外は会社としては介入しないが、そもそも、なぜ副業が必要なのか?」スキル、収入が理由で副業せざるをえないなら、会社として異動や就業時間の変更など、善処する余地があることを伝えていきましょう。
そもそも「服務規律と懲戒」とは?
法律の”そもそも”に立ち返る職場の規律を維持するためには、きちんと「服務規律」を記載しなければならない内容になります。「服務規律」を定めるにあたって、どのようなことを配慮しなければならないのでしょうか?
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