「労働契約」は本来どのような契約を結んでも自由であることが原則です。しかし、制限がない場合は、相対的に立場の強い使用者有利の条件で契約が締結されてしまいますので、労働基準法で制限が課せられています。この記事では「労働契約法」の原則や基本的な考え方、労働基準法との違いについて説明していきます。

「労働契約法の原則」とは?

平成20年3月から労働契約法が施行された、労働契約についての基本的なルールを明らかにした法律です。

労働契約法では、以下の4つのポイントを定めています。

(1)労働契約の原則

労働契約の基本的な理念及び労働契約に共通する原則(労使対等の原則、均衡考慮の原則、仕事と生活の調和への配慮の原則、信義誠実の原則、権利濫用の禁止の原則)を明らかにしています。

(2)就業規則による労働契約の内容の変更

使用者は就業規則の変更によって一方的に労働契約の内容である労働条件を労働者の不利益に変更することはできないことを確認的に規定した上で、就業規則の変更によって労働契約の内容である労働条件が変更後の就業規則に定めるところによるものとされる場合を明らかにしています。

(3)労働契約の継続及び終了

出向・懲戒・解雇において、使用者の権利濫用に当たる出向命令や懲戒、解雇は無効となることを明らかにしています。

(4)期間の定めのある労働契約

契約期間中はやむを得ない事由がある場合でなければ、解雇できないことを明確化するとともに、契約期間が必要以上に細切れにならないよう、使用者に配慮を求める等の内容が規定されています。

また、有期労働契約が通算5年を超えて繰り返し更新されたときは、労働者の申込みにより、期間の定めのない労働契約(無期労働契約)に転換できるルールなどが、平成25年4月1日からスタートしました。

労働契約法第1条(目的)

目的(労働契約法)

第一条 この法律は、労働者及び使用者の自主的な交渉の下で、労働契約が合意により成立し、又は変更されるという合意の原則その他労働契約に関する基本的事項を定めることにより、合理的な労働条件の決定又は変更が円滑に行われるようにすることを通じて、労働者の保護を図りつつ、個別の労働関係の安定に資することを目的とする。

労働基準法は労働者が働く上での労働条件の最低基準や、使用者の制限が書かれていますが、労働契約法では、使用者と労働者が雇用契約を締結したり、労働契約の中の労働条件を変更し、労働契約を終了するにあたってのルールが明記されています。

第1条の目的条文では、労働者の保護を図りつつ、個別の労働関係の安定に資することが目的であることを規定しています。

目的条文(第1条)
労働契約法労働者の保護を図りつつ、個別の労働関係の安定に資することが目的
労働
基準法
(1)労働者が人たるに値する生活を営むための必要を充たすこと、(2)労働条件の向上を図ることが目的

労働契約法第2条(定義)

定義(労働契約法)

第二条 この法律において「労働者」とは、使用者に使用されて労働し、賃金を支払われる者をいう。

2 この法律において「使用者」とは、その使用する労働者に対して賃金を支払う者をいう。

第2条では労働者と使用者の定義について書かれています。労働契約法は雇用契約の締結、変更、終了についてのルールが書かれていますので、雇用契約がある(労働力を提供し、その対価を支払う者)の関係者であると定義しています。

雇用契約が無い者も「労働者」に含める労働組合法とは対象範囲が異なります。

労働者の定義使用者の定義
労働契約法使用者に使用されて労働し、賃金を支払われる者その使用する労働者に対して賃金を支払う者
労働基準法職業の種類を問わず、事業又は事務所に使用される者で、賃金を支払われる者事業主又は事業の経営担当者その他その事業の労働者に関する事項について、事業主のために行為をするすべての者
労働組合法職業の種類を問わず、賃金、給料その他これに準ずる収入によって生活する者規定なし

労働者の定義が異なる

労働契約法、労働基準法、労働組合法それぞれで「労働者」の定義が異なります。例えば、

  • 3/15に即時解雇の扱いで、普通解雇をした場合
  • 3/15に解雇予告を行い、3/31に普通解雇した場合

の、3/16~3/31の期間は、

前者の場合は、労働契約法、労働基準法、労働組合法のいずれも労働者に該当しますが、後者の場合は雇用契約が存在していませんので、労働組合法の労働者には該当しますが、労働契約法・労働基準法の労働者には該当しません。

労働契約法・労働基準法ともに、使用者との雇用関係があることが前提での法律ですので、雇用契約が会社側から一方的に解消された以上、労働者に該当しなくなるような仕組みになっています。

労働契約法第3条(労働契約の原則)

労働契約の原則(労働契約法)

第三条 労働契約は、労働者及び使用者が対等の立場における合意に基づいて締結し、又は変更すべきものとする。

第1項は、雇用契約も契約ですので「契約自由の原則」に従いますが、使用者側が有利であるのが雇用契約の特長です。そのため労働契約法でも、契約は対等の立場で契約を結び・変更することが明記されました。

2 労働契約は、労働者及び使用者が、就業の実態に応じて、均衡を考慮しつつ締結し、又は変更すべきものとする。

第2項は、就業の実態に応じて契約を締結・変更する旨が明記されています。同じ仕事をしているにも関わらず、一方的に給料を下げられることはもちろんNGですが、働かなくなったのに従来の給料を払って欲しいというのも均衡が保てません。使用者だけでなく、「労働者」も就業の実態に応じて系悪を変更するように求めているのが特徴です。

3 労働契約は、労働者及び使用者が仕事と生活の調和にも配慮しつつ締結し、又は変更すべきものとする。

第3項は、生活とのバランスを述べています。生活ができないくらいカツカツな給料はダメですし、働き方も公私のバランスを配慮することを求めています。

4 労働者及び使用者は、労働契約を遵守するとともに、信義に従い誠実に、権利を行使し、及び義務を履行しなければならない。

第4項は、労働契約では、10年後の5月16日に具体的に何をするのかまで定めることはできません。
また、雇用契約は売買契約のように一瞬の関係ではなく、長期にわたり関係が続きます。「未来のことも分からないし、長い関係なのだからお互いに誠意をもって関係を続けましょうね。」ということが書かれています。

5 労働者及び使用者は、労働契約に基づく権利の行使に当たっては、それを濫用することがあってはならない。

第5項は、使用者側の権利の濫用を禁じることはもちろんですが、「濫用をしてはならない」のは「労働者」にも求められますので、権利だからといって理不尽な要求を使用者にしてはならないことが書かれています。

労働契約法第4条(労働契約の内容の理解の促進)

労働契約の内容の理解の促進(労働契約法)

第四条 使用者は、労働者に提示する労働条件及び労働契約の内容について、労働者の理解を深めるようにするものとする。

労働条件の通知は労働条件通知書を交付することが、労働基準法で求められていますが、労働契約法では、「労働条件通知書や労働契約書を交付したらオシマイ」というのではなく、労働者が労働条件の内容を理解を深めるようにすることを使用者に求めています。

2 労働者及び使用者は、労働契約の内容(期間の定めのある労働契約に関する事項を含む。)について、できる限り書面により確認するものとする。

労働基準法では、労働条件通知書で必ず労働者に明示しなければならない「絶対的明示事項」を、就業規則では「絶対的記載事項」が定義されています。

しかし、10人未満の事業場であれば就業規則の作成義務はありませんので、零細企業の場合は労働条件通知書の「絶対的明示事項」しか書面で伝わらない可能性があります。労働契約法の第2項では、労働条件は出来るだけ書面で伝えるよう求めています。

採用の際に明示しなければならない労働条件(絶対的明示事項)

会社が労働者を雇用する時は、労働条件を明示しなければなりません。(労働基準法第15条)必ず明示する事項は以下の5つになります。

  1. 労働契約の期間に関する事項
  2. 就業場所及び従事すべき業務に関する事項
  3. 始業および終業の時刻、所定労働時間を超える労働の有無、休憩時間、休日、休暇並びに労働者を2組以上に分けて就業させる場合における就業時転換に関する事項
  4. 賃金(退職手当等を除く。)の決定、計算及び支払い方法、賃金の締切り及び支払い時期並びに昇給に関する事項
  5. 退職(解雇の事由を含む。)に関する事項

※パート・アルバイトは上記事項に加え、

  1. 退職手当の有無
  2. 賞与の有無
  3. 雇用管理の改善等に関する事項に係る相談窓口

についての明示が必要です。

なお、労働法条件の書面確認は労働者にも求めています。「会社が教えてくれないのが悪い」では不十分であり、契約の当事者の一方である労働者も、きちんと労働条件を確認しなければなりません。

労働契約法第5条(労働者の安全への配慮)

労働者の安全への配慮(労働契約法)

第五条 使用者は、労働契約に伴い、労働者がその生命、身体等の安全を確保しつつ労働することができるよう、必要な配慮をするものとする。

労働災害については労働基準法で「災害補償」として定義されており、労働災害の補償については「労働者災害補償保険」(労災保険法)で定められていますが、これまで労働災害の”予防”については具体的な条文がありませんでした。

労働契約法では、労働災害を予防するため、使用者側の安全配慮義務を求めています。労働者が安心・安全に働けるように配慮することが、労働契約法で明文化されました。

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