Q:「辞めていただく」ということの中で、退職勧奨や解雇の話を聞きました。
従業員が体調が悪いという理由で出勤できなくなったり、期待する仕事ができなくなった場合は解雇ができるのでしょうか?ちなみに、労災ではなく私傷病のケースです。
A:裁判例で解雇が有効となる場合と、無効になる場合があります。個別にケースを見ないと何とも言えませんが、私傷病を理由とした解雇の判例をご紹介します。傾向として掴んでみましょう。
辞めていただくの種類
解雇や退職勧奨辞めていただくと言っても「自己都合退職」や「会社都合」など言われますが、「辞めていただく」にも様々なかたちがあります。労働基準法の観点から「辞めていただく」を考えてみましょう。
解雇が有効なケース
東京電力解雇事件 東京地判平10・9・29
訴えの内容
慢性腎不全による身体障害等級一級の嘱託社員が、手術後も体調が悪く入退院を繰り返し、その後もほとんど出社しなかったため、このままの欠勤状況が続くと嘱託雇用契約の継続は困難となる旨の書簡を郵送した。
その後、就業規則に定める解雇規定の「心身虚弱のため業務に耐えられない場合」に該当するとして予告解雇をしたことにつき、不当解雇であるとして、定年までの生活保障などを求めた事例。
判旨【要旨抜粋】
原告は、被告の就業規則取扱規定に定める心身虚弱のため業務に耐えられない場合に該当すると認められ、本件解雇には、相当な解雇権理由が存在し、かつその手段も不相応なものではなく、解雇権の濫用には当たらないといえるとした。
なお、原告の主張が、被告が原告を酷使するなどの不法行為により、病状が悪化し、勤務できない状態となったのに、被告が解雇をしたのは不当だとしても、原告主張の各不法行為に該当する事実は認定できず、原告の不当解雇の主張は理由がないとして訴えを退けた。
北海道龍谷学園事件 札幌高判平11・7・9
訴えの内容
脳卒中で倒れて半身不随になり入院治療を受けていた私立高校の保健体育の教師が、就業規則に定める解雇事由の「身体の障害により業務に堪えられないとき」に該当するとして解雇され、その解雇の効力を争ったケース。
判旨【要旨抜粋】
脳卒中の後遺症がある高校教諭の身体能力等は実技指導、緊急時の対処能力及び口頭による教育・指導等において保健体育教員としての身体的資質・能力水準に達せず、その業務に堪えられない状況にあり、学校側が解雇までにその種々の配慮を行ったことから解雇権の濫用があったとは認められないので、教諭の解雇は有効であるとした。
横浜市学校保健会事件 東京高判平17・1・19
訴えの内容
小学校の歯科巡回指導を行う歯科衛生士として雇用された労働者が、頸椎症性脊髄症による長期間の休業の後、職務の遂行に支障があり又はこれに堪えないとしてされた解雇された。原告はこの解雇を無効であるとして横浜地裁に提訴したが敗訴したため、東京高裁に控訴したものである。
判旨【要旨抜粋】
「心身の故障のため、職務の遂行に支障があり、又はこれに堪えない場合」に該当するとして、本件解雇を適法とした。また、工夫により歯科衛生士として就労することが可能であったとの主張もしりぞけた。
解雇が無効なケース
カンドー事件 東京地判 平17・2・18
訴えの内容
躁うつ病を理由に解雇された原告が、当該解雇は解雇権の濫用で無効であると主張したもの。
判旨【要旨抜粋】
就業規則では最大2年の休職期間を与えることが可能であるところ、原告に与えられたのは7か月余りに過ぎないこと、使用者側において専門家の意見を求めた形跡がないこと、医師の意見によれば適正な治療を受けさせることによって回復する可能性がなかったとはいえないこと、自律神経失調症を患っている他の労働者は雇用を継続しており平等取扱に反することなどから、解雇は解雇権の濫用であるとした。
全日空事件 大阪高判 平13・3.14
訴えの内容
ムチウチ症により約4年間休職していた客室乗務員が、会社から執拗な退職勧奨を受けたうえ理由なく解雇されたとして,解雇無効による雇用契約上の地位の確認と,退職強要は人格権を侵害する不法行為に当たるとして1100万円の慰謝料の支払いなどを求めた事件。
判旨【要旨抜粋】
労働者が休業又は休職後直ちに従前の業務に復職できない場合でも、比較的短期間に復帰することが可能であるときは、短期間の復帰準備期間を提供したり、教育的措置をとることなどが信義上求められるべきであり、著しい労働能力の低下又はこれに準ずる状態にあるとは認められない者を解雇したことは、解雇権の濫用であるとした。
このように「辞めていただく」と言っても様々な種類があり、解雇には様々な制約条件があります。安直に「解雇!」と言う前に、解雇要件を満たしているのか慎重に検討しましょう。
あわせて読みたい
職場の問題が解決しない
「やりかた」の前に「ありかた」労働トラブルの発生や、あるべき姿が定まらない原因は「根本の考え方が揃っていない」ことも理由の一つです。これまでの経験や判断を振り返り、これからの自社/部門のあるべき姿を発見・共有する職場学習型の研修をご存知ですか?
そもそも「解雇と退職」とは?
法律の”そもそも”に立ち返る「退職」とは会社と従業員の雇用契約を終了させることで、「解雇」とは会社側が一方的に雇用契約を終了させることです。この記事では「退職と解雇」についてどのようなことを配慮しなければならないのでしょうか?