コラム・レポート

2021-01-21

経営不振で従業員を解雇するまでの流れと、法律や手続きについて注意・配慮すること

スタッフコラム 労働相談&労働トラブル

コロナ禍による緊急事態宣言以降も、円安や物価高により厳しい経営が続いている企業も少なくありません。

現金預金を取り崩ししたり、固定資産を売却し現金化したり、将来の返済のリスクにおびえながら銀行からの借入を起こしたり、役員報酬の支給を止め従業員の給与支払いに回したり、個人のたくわえを切り崩して雇用を守ろうとしている経営者の方も少なからずいらっしゃると思います。

もちろん、雇用を守ることは経営者としての責務であることは間違いありません。しかし、私財をなげうって従業員の雇用を守ることにも限界があります。

雇用調整助成金があったとしても申請から支給までに時間がかかります。雇用調整助成金で急場をしのぐにはキャッシュフローが回っていることが前提になりますが、キャッシュフロー自体が回らなくなってしまってはどうしようもなくなってしまいます。

経営不振が続き、キャッシュフローが回らなくなり、会社も従業員も経営者自身の生活も守れなくなってしまっては元も子もありません。また、給料日前に会社が突然倒産して、従業員が働いた分の賃金すらもらえなくなるという悲劇も避けねばなりません。

あまり書きたくありませんが、最後の手段として従業員に辞めていただかざるを得ないときの流れを解説したいと思います。雇用の確保ができることが最善ですし、この記事に解雇や退職勧奨をうながす意図はありません。どうしても雇用の維持ができないときの道筋について、紹介させていただきます。

まずは雇用の確保の道を探る

「辞めていただく」ありきで考えるのではなく、雇用の確保を考え、雇用調整助成金をはじめとした助成金・補助金を受給することを考えましょう。
これまで長い期間にわたって貢献してくださった方ですし、手塩を掛けて育てたスタッフであることも経営者として忘れてはなりません。必ず、雇用の確保の道を探りましょう。

会社都合で休業をしてもらうのであれば、休業手当を支給します。休業手当を支給したら雇用調整助成金の支給申請を行い、休業手当の補填を行うのが最初の流れになります。

雇用調整助成金を支給申請するとしても、申請から現金が振り込まれるまでに一定期間がかかりますので、資金繰りの余裕があることが条件になります。
雇用調整助成金が入金されるまで資金が持たないとなると、次の手を考えなければなりません。

資金繰りが厳しい場合は「賃金カット」を申し出る

資金繰りそのものが厳しい場合は、キャッシュアウトを少しでも止めなければなりません。そうなると賃金カットをして当面の持ち出しの絶対額を減らしていかざるを得ません。

賃金カットは「労働条件の変更」になりますので、「会社と労働者本人の合意」が前提になります。会社から状況と賃金カットの条件を従業員に明示し、本人の合意をもらうようにしましょう。

賃金カットと言っても色々なカットのしかたがあります。一律の賃金カットもありますが、相対的に賃金の安い方は賃金カットによる、生活へのダメージが大きくなってしまいます。例えば、比較的賃金が多く生活へのダメージが小さい給料の高い者から手を付ける、役職手当・資格手当など本給以外の手当から優先して賃金カットをするというように、生活が立ち行かなくなる従業員が出ないように配慮をするのも一つの工夫になります。

賃金カットをしても厳しい場合は「希望退職」を募る

賃金カットだけでは足りなくなると今度は、人員削減によって人件費を抑えていくことになります。
最初は「希望退職」を募ることになります。会社として退職を希望する人を募集し、応募した人に割増退職金や転職支援といったサービスを提供していきます。

転職するアテや、転職の自信がある優秀な人から手を挙げる傾向があると言われ、希望退職に躊躇する会社もあります。しかし、次に整理解雇を行う場合、整理解雇は対象者を特定することができませんので、結局優秀な人も対象とせざるを得なくなることも忘れないようにしましょう。

希望退職をする際には、早期申出者には割増退職金が増額されるなど、早めの応募をした方が有利になるように希望退職の制度を設計すると「どうしようか迷っている人」の退職を促すことが出来るようになります。

もちろん、希望退職制度についても、割増退職金の加算などが必要になりますので、資金繰りに余裕があるうちに計画しなければ実行できません。

雇止め、退職勧奨、普通解雇、整理解雇を検討する

希望退職をしても間に合わない場合は、いよいよ解雇等をせざるを得なくなります。職種や雇用形態によって仕組みが異なりますので、仕組みを使い分けていきましょう。

【1】雇止め(やといどめ)

有期雇用契約の方の契約を更新しないことを「雇止め(やといどめ)」と言います。
契約の更新回数にもよりますが、おおむね契約更新の1か月程度前に、ご本人に契約更新をしない旨を伝えます。この際には「雇止め通知書」などの書面を交付するなど、記録が残る形にしておくことが大切です。

雇止めは、契約を更新しないことですので、期間の途中で雇止めをすることはできません。また、契約更新の手続きを毎年しておらず、なし崩し的に契約更新をしていた場合、働く側としては「次も更新してくれるだろう」という期待(期待権と言います)が出てきますので、雇止めを主張しにくくなります。この点も留意し、本人にもきちんと説明をしていきましょう。

【2】退職勧奨(たいしょくかんしょう)

無期雇用契約の場合や、有期雇用契約の途中の方に対しては、解雇の前に退職勧奨(たいしょくかんしょう)をしていきます。
退職勧奨とは「辞めてもらうことを、お願いし、労使で合意して雇用契約を解消するもの」と理解しましょう。(ちなみに解雇は、会社側から一方的に雇用契約を解消するものです。)

離婚(婚姻契約の解消)で例えるなら、
「別れて欲しい」とお願いし、「分かったよ」と相手が合意する。→退職勧奨
「ある日、突然自宅の荷物を路上に放り出し、一方的に相手を追い出す」→解雇

とイメージすると良いかと思います。

退職勧奨をした場合、相手の合意が前提になります。どのような形で合意しても構いませんが、何らかのインセンティブを用意すると合意もスムーズになります。ちなみに、退職勧奨による退職の場合は離職票の退職理由も「4-(3)希望退職の募集又は退職勧奨」)となり従業員は待期期間なく失業保険を貰えるようになります。

なお、退職勧奨は両者の合意が前提なので、後で認識が違ったとならないよう合意書を用意しておくことも忘れてはなりません。退職届を従業員から出してもらうと、本人の自己都合のように見えてしまい、のちのちトラブルになりますので、退職勧奨の合意書を作るのが良いでしょう。

【3】普通解雇

雇止めや退職勧奨でも間に合わない場合は、いよいよ会社側の一方的な雇用契約の解消である解雇に踏み込んでいきます。解雇には「普通解雇」「整理解雇」「懲戒解雇」があります。懲戒解雇は懲罰的なものですので、今回のテーマでは発生しません。

会社の業績不振によることが理由であれば「整理解雇」を進めていくことになります。
社会整理解雇と普通解雇の違いが分かりにくいですが、整理解雇も普通解雇の一類型を言われています。一般的に普通解雇は労働者側に雇用契約の継続について問題がある場合に、行われるものですが、整理解雇は業績不振といった会社側に原因がある場合に用いられます。

基本は一律の整理解雇をすることになりますが、労働者側に問題があり、何度も是正しない者の場合は、普通解雇の選択肢も検討する余地があると思われます。

例えば、
・長期的に病気になっており、回復の見込みがない
・雇用した条件の能力を発揮してもらえない。
・無断欠勤や上司の指揮命令に反抗的な態度をとる。
などといった理由があれば、普通解雇が適用されることになります。

普通解雇をする際には、
1、客観的に合理的な理由があること
2、社会通念上相当な理由があること
が求められます。
いまいちつかみどころのない表現ですが、「それだったら、解雇されても仕方ないよね。。」と誰が見ても、仕方ないと言ってもらえるかどうかで判断されます。

客観的な理由ということですので、
・欠勤の回数が分かる資料がある。
・素行不良を改善するために、何度も指導や面談を行った記録がある
などといった事実を積み上げていくことが必要になります。

なお、解雇をする場合、
(1)業務上のケガや病気で労働者が休業している時、およびその後30日間
(2)産前産後で休業している時、およびその後30日間
に該当する人は解雇ができないので注意が必要です。

【4】整理解雇

会社の業績不振によるリストラとなると「整理解雇」を最後に行っていくことになります。整理解雇を行う場合は、以下の4つの要件(整理解雇の4要件)を満たしてなければなりません。

整理解雇の4要件
1:人員整理をしなければならない必要性があるかどうか
整理解雇をするほどの、経営が危機的な状況を迎えているかどうかが問われます。整理解雇は普通解雇や懲戒解雇とは異なり、従業員本人に非がないので本当に整理解雇が必要かどうかは厳しく問われます。

2:解雇をせずに済む努力を尽くしたか
整理解雇の前に、配置転換や希望退職の抑制、役員報酬の削減など他の手段を尽くしたかどうかも問われます。

3:解雇する人を選ぶ基準に合理性があったか
人員の選定に合理性と公平性があることも問われます。特定の者を指名したりすることはできないと理解してください。

4:手続の妥当性に問題はなかったか
整理解雇に至るまでの手続きについても重視されます。従業員に説明・協議をし、納得を得る努力を尽くしたかどうかも厳しく問われます。

辞めていただくといっても時間かおカネが必要

解雇をする場合であっても、解雇予告手当の支給や30日前の予告(組み合わせも可能)が必要になります。
「業績が悪いので、明日解雇します。」は出来ません。解雇するとしても、賃金や解雇予告手当に相当する資金が必要になりますので、やはり一定の現金が必要になります。

解雇に限らず前述の雇止めや退職勧奨をする場合であっても、事前の説明や話し合いなどの時間が必要になります。見たくない現実ですが従業員のためにも、資金繰り表を熟読し、どの方法で自社と従業員の生活を守っていくのか、考えていかなければなりません。

従業員の生活の確保を考えよう

「従業員に辞めていただく」ということは後ろめたいことですが、従業員にとって最も悲惨な状況は、「会社が突然倒産し、これまで働いた賃金ももらえず突然路頭に迷う」ことです。
仮に解雇や退職勧奨となっても失業保険(正確には「雇用保険の基本手当」といいます)が待期期間を待たず受給できますので、会社が突然蒸発ということだけは回避しましょう。

会社が突然倒産した場合でも、「未払賃金立替払制度」というものがあり、労働者が救済される仕組みもあります。しかし、満額立替されないこと、総額2万円未満は支給されないこと、もちろん手続きが必要で、すぐに支給されないこと。などがあり従業員の生活がすぐに安定するものではありません。やはり、万策尽きたとしても、これまで貢献してくれた従業員が安心して生活ができるように配慮する方が優先だと考えます。

未払賃金立替払制度(厚生労働省ウェブサイト)https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/koyou_roudou/roudoukijun/shinsai_rousaihoshouseido/tatekae/index.html

まとめ

この記事では、大まかな流れを説明しました。退職勧奨や解雇をするにあたって、配慮しなければならないことは、たくさんあります。一人で進めるのではなく顧問の社会保険労務士に相談しながら進めていきましょう。

また、いざというときに「手続きができない」ということにならないよう、有期雇用契約の契約更新の書類を取り交わす。問題社員の問題行動については、きちんと指導の記録をとっておくなど、普段から労務管理の環境は整備しておきましょう。

従業員の生活を案じつつ、身銭を切ったり、返済の確証の無い借入で急場を凌いでいるような、本当に苦しい思いをしている経営者の方が多くいると思います。繰り返しますが、雇用の確保ができることが最善ですし、この記事に解雇や退職勧奨をうながす意図はありません。どうしても雇用の維持ができないときの道筋について紹介させていただきました。


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