コラム・レポート

2020-02-05

新型コロナウィルスに社員が感染したとき、会社は出勤停止はできるのか?

人事管理&賃金 代表&スタッフコラム

ここ数日で新型コロナウィルスが話題になっています。社員が新型コロナウィルスに感染した場合、出勤停止を命じた場合、休業補償を払わなければならないのでしょうか?

また、有給休暇でクルーズ船に乗っていたが、上陸できず帰宅できない、もしくは海外旅行中に外国から帰国できないとなった場合、勤怠管理はどうなるのでしょうか?

一般的には、

社員:「体調が悪いので休みます。」
会社:「そうですよね。ゆっくり休んでください」

もしくは

会社:「病気が蔓延しているので、会社を休業したいので、みんな有給とってもらえませんか?」もしくは「会社として労働者代表の意見を聞いたので、時季指定権を行使して○日から○日は有給休暇を取得してください」

と有給休暇の取得をお願いするか、昨年施行された有給取得義務化を応用して、会社が有給休暇の時季指定権を行使するものとなります。

 

しかし、

「有給休暇を使いたくない」
「有給休暇を持っていない」

となった場合、法的に出勤させないことを強制できるのでしょうか?

(1)法律的に就業を制限をできるのか?
(2)休ませたときの賃金の支払いはどうなるのか?

という観点で考えてみたいと思います。

 

 

■労働安全衛生法では新型コロナウィルスを理由に就業禁止することは難しい?

 

就業を制限させる法律は2つあります。それは、「労働安全衛生法」と「感染症の予防及び感染症の患者に対する医療に関する法律(感染症予防法)」になります。ただし、それぞれ制限や条件があり、現時点(20年2月5日時点)では新型コロナウィルスを理由に法的に就業を制限させることは難しそうです。

 

労働安全衛生法第68条に、「事業者は、伝染性の疾病その他の疾病で、厚生労働省令で定めるものにかかった労働者については、その就業を禁止しなければならない。」とあります。

この「厚生労働省令で定める疾病」とは何かというと、労働安全衛生規則の第61条に、「事業者は、次の各号のいずれかに該当する者については、その就業を禁止しなければならない。」

 

  1. 病毒伝ぱのおそれのある伝染病の疾病にかかった者
  2. 心臓、腎臓、肺等の疾病で労働のため病勢が著しく増悪するおそれのあるものにかかった者
  3. 前各号に準ずる疾病で厚生労働大臣が定めるものにかかった者

 

とあり、厚生労働省は「伝染させるおそれが著しいと認められる結核にかかっている者」(平成12年3月30日・基発第207号)であるとしているため、残念なことに新型コロナウイルスが該当しません。また、医師の意見を聞いた上要否の判断が必要とされていますので、行政通達が追加されない限り、労働安全衛生法を根拠に就業禁止をすることは難しくなります。

 

 

■強力な伝染病であれば就業禁止となるが、新型コロナウィルスは?

労働安全衛生法が有用でないため、新型コロナウィルス患者の出勤を禁止することができないのかというとそうではなく、「感染症の予防及び感染症の患者に対する医療に関する法律(感染症予防法)」という法律があり、国として外出されると困る病気の場合は、就業制限を掛けることができます。

 

具体的にどのような、病気にかかった場合、感染症予防法を根拠に就業制限ができるかというと、エボラ出血熱、クリミア・コンゴ出血熱、ペスト、マールブルグ病及びラッサ熱(一類感染症)、急性灰白髄炎、コレラ、細菌性赤痢、ジフテリア、腸チフス及びパラチフス(二類感染症)、腸管出血性大腸菌感染症(三類感染症)になります。この病気にかかった場合は、厚生労働省が指定する業務に、そのおそれがなくなるまでの期間従事が出来なくなります。

 

ただ、この中には、新型コロナウィルスは含まれていませんので、いまの時点では就業制限を掛けることができません。

ちなみに、インフルエンザ、ウイルス性肝炎、性器クラミジア感染症、梅毒、麻しん、マラリア、などは(四類感染症)になりますので就業制限の対象にはなりません。

 

 

■政府が新型コロナウィルスを指定感染症に指定するかが注目

このままでは、新型コロナウィルスに感染していても、出社されてしまっては困る!!となってしまいます。ただ、感染予防法の中に「指定感染症」という考え方があり、「指定感染症」に指定されると感染症予防法が準用されるようになり、新型コロナウィルスでも就業制限を掛けられるようになりますが、「指定感染症」は「国民の生命及び健康に重大な影響を与えるおそれがあるもの」と定義されていますので、政府が新型コロナウィルスを「指定感染症」に指定するのかが注目です。

 

 

■新型コロナウィルスにかかった社員を休ませる場合、休業手当の支払いは必要なのか?

前述の感染症予防法で認められた疾病である場合は、行政や医師の判断により「就業禁止」とされ、会社の都合ではありませんので休業手当は不要になります。

ただ、「一類感染症」から「三類感染症」もしくは「指定感染症」に該当しない限り、ただの病気と同じ扱いになり法律を理由に就業を制限することができません。

 

新型コロナウィルスを発症しても出勤したいという社員がいた場合、休業手当を支払い会社の命令として休ませることになります。

もちろん、有給休暇を取得してもらうか、欠勤してもらうのが、一番ありがたいのですが、有給休暇は会社が強制的に取得させることは原則的にできません。「有給を使うのはもったいないので、這ってでも行きます。」と言われてしまった場合は、自宅待機を命令し休業補償を支払って休ませましょう。

 

 

■出国禁止等の理由で社員が海外から帰ってこれない場合

有給休暇中の従業員が出国制限/入国制限にかかってしまい海外から帰国できないことも考えられます。労使は雇用契約にもとづき、約束の時間・場所で働くことを約束していますので、有給休暇中に帰ってこれないというのであれば、本人の都合で労務が提供できないわけですから欠勤という扱いになり、会社側も賃金の支払いの義務も消滅することになります。

余談ですが、民法第536条第2項に危険負担の債権者主義という概念があるのですが、会社の業績が悪いので休んで欲しいという場合や、工場が火事になった場合など会社側の理由で働けないのであれば、会社は賃金を支払わなければなりません。一方で天変地異により会社が全壊してしまった場合は、会社に責任がありませんので賃金の支払い義務は発生しません。新型コロナウィルスによる入国や出国が禁止されるというケースに当てはめると、入国拒否は会社の責任ではありませんので、原則通り欠勤扱いと考えるのが妥当と思います。

 

■情報の収集とルール作り、職場の上司への周知が大切

新型コロナウィルスが、法令に該当する伝染病・感染症の扱いになるかどうか、厚生労働省からの発表などに注意しておく必要があります。

冒頭の「時季指定権」を行使する場合は、就業規則への明記が必要になりますので、また、時季指定権が行使できるか?、出勤停止を命じられるかどうか?、について、この機会にチェックしておいてもいいと思います。

 

前述のとおり、有給休暇は従業員の自由な意思で取得するものです。一番先に本人から連絡を受けるであろう上司が「有給休暇を強制取得させる」と命令で話してしまうことがないよう、予め社内で周知しておくことをおすすめします。

あくまでも本人の意思で有給休暇等により休んでもらいたいところですので、「他の方にうつってはいけませんし、治ってから働いた方がいいのでは?」と有給の取得について強制するのではなく、あくまでも協力という形でお休みを促すようにしましょう。

 

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