立派な賃金制度を整備しても、現場に理解され、使いこなしてくれないと意味がありません。

移行方法の検討

移行方法を検討します

賃金制度には、労働の対価の支払いという側面の他に、生活保障の側面もあります。
急激な賃金ダウンは従業員の生活を不安定にさせてしまうだけでなく、不利益変更に該当する可能性が高くなります。

一方で、調整給という形で賃金を支給し続けると、総額人件費のコントロールができなくなります。「賃金テーブルが完成したら、おしまい。」ではなく、どのように移行させ着地させていくのかを考えていきます。
移行方法を考えるにあたっては、

  • 減給額を補てんする、調整給はどの程度支給するのか?
  • 調整給を支給する期間は、どの程度とするか?
  • 調整給は、どのように支給していくのか?
    ⇒期間が終了すれば全額削減するのか、それとも調整給は毎年一定額ずつ減額していくのか?

などを検討していきます。

ポイント(1)移行のスケジュールの作成

移行のスケジュールの作成では、システム開発などと異なり、給与改定は年度の途中で唐突に切り替えるのではなく、昇進昇格や組織変更のある期初や下期開始の時などキリの良いタイミングを狙います。

新しい賃金制度に変更したら、就業規則や賃金規程の変更を行い労働基準監督署に提出する必要があります。

賃金規程の更新人事制度の説明資料の準備

7.従業員向けに人事制度の説明資料やハンドブックを作成します

立派な賃金制度を整備しても、現場に理解され、使いこなしてくれないと意味がありません。

賃金規程の更新は必須ですが、日々忙しい現場のメンバーに向けて、制度改定の趣旨や新しい賃金制度のポイントが簡単にわかる説明資料やハンドブックを用意します。

作成していく資料は、時間と余力にもよりますが、

  1. 説明会時の配布資料
  2. 各自が日常の業務の合間に確認できる冊子

を作成されるのが望ましいでしょう?

1回の説明で、従業員に理解されることは難しいですから、ポータルサイトの公開や、定期的なメルマガの発行なども、理解浸透のために有効なツールになります。

ポイント(1)就業規則・賃金規程

就業規則・賃金規程の変更も疎かにしてはなりません。就業規則や賃金規程で書かれていることは労働条件になりますし、規程をもとに給与計算業務が行われますので、正しく内容を反映するようにしましょう。

さらに賃金制度改訂は、新しい制度が毎月の給与計算に反映されて、はじめて完成と言えます。給与計算システムの修正、社会保険手続きの準備も準備をしておきます。特に給与計算は並行計算と呼ぶ、新しい賃金制度での給与計算の予行演習が必要になります。

並行計算は現行の給与計算を行いながらになりますので、データの設定日・仮計算の結果の検証日など、出来れば1日単位での給与計算の移行に向けたスケジュールを組んでいきましょう。

「賃金制度」と聞くと、号俸テーブルの作り込みをイメージしがちですが、実はそれは一つの工程であって、賃金制度改定はもっと多くのテーマを検討していきます。

労使交渉(組合との調整)役員会での説明

労働法に明るくない場合、「組合がダメと言ってくるものは、本当にダメなのか?」、「どこまでが法令違反になるのか?」労働組合との交渉を進めるうえで不安なことは、たくさん出てきます。

10.労使交渉の支援をしていきます

労働法に明るくない場合、「組合がダメと言ってくるものは、本当にダメなのか?」、「どこまでが法令違反になるのか?」労働組合との交渉を進めるうえで不安なことは、たくさん出てきます。

また、会社側の不用意な一言で、労使交渉が不利になってしまう場合もあります。労使交渉の進め方、組合への話の伝え方、法律の知識などを十分に下準備をしてから、労使交渉に臨みましょう。

社会保険労務士などの専門家に、労使交渉に必要な知識等をレクチャーしてもらうなど、側面から支援してもらうのも1つの選択肢です。

ポイント(1)経営層や労働組合との合意形成

経営層や労働組合との合意形成も、丁寧なコミュニケーションを行っていきましょう。経営層には総額人件費の変化移行の際に調整給(賃金が下がる者に対する、いわゆる激変緩和措置)に必要な予算について了解を取り付けていきます。また、労働組合に対しては制度の趣旨の説明や、制度変更に伴いマイナスの影響(いわゆる不利益変更)を受ける者に対する支援策や、相談窓口の設置や労働協約の手結など組合の協力を仰ぐ事項について理解を得るように、賃金制度設計の検討の途中から早めにコミュニケーションを取っていきます。

制度改定の説明会(従業員向け)

8.制度改定の説明会の開催をします

人は、急な変更や、経緯のわからない変化に対して抵抗感を覚えます。どのような理由で賃金制度を変更するのか理由を説明し、合意形成を行っていきます。

ポイント(1)社員向けの説明会

社員向けの説明会も順序が必要です。賃金制度の改定は、当事者にとって将来の生活設計にも影響しますので不安を解消するようにします。具体的には、賃金制度の検討期間中は検討で決まったことを少しずつ発信し制度の方向性の理解を促します。賃金制度の詳細が決まったら説明会を開催し、説明会の後に個別面談で一人ひとりの新しい賃金額を伝え、労働条件の変更の合意書を取り交わします。

全国に拠点のある企業の場合は、全体への説明会のために人事部が全国を巡業する日程調整や、説明会参加者のスケジュール調整もありますので、早めに準備に着手しておくのが望ましいです。

賃金制度には、労働の対価の支払いという側面の他に、生活保障の側面もあります。
急激な賃金ダウンは従業員の生活を不安定にさせてしまうだけでなく、不利益変更に該当する可能性が高くなります。

フェアプロセスの原則

労働組合や、労働組合が無い場合は、従業員代表だけに説明をするというやり方もありますが、賃金制度が変わるということは、従業員にとってインパクトの大きい出来事です。
不安や誤解が独り歩きしないよう、繰り返し従業員に伝えていくことが大切です。
労働組合や従業員代表と協力して、直接従業員に説明し、従業員の疑問を解消していくことも、忘れてはいけないポイントです。
※制度を検討する際に、現場の意見を聴収していくことも可能です。

まとめ:制度移行のポイント

ポイント(1)法律に詳しい人の力を借りる

賃金制度の改訂とは、限られた人件費の原資の配分ルールを変更することです。賃金が上がる人もいれば、下がる人もいます。減額となる場合は、話の進め方を誤ると不利益変更となりかねません。また、賃金規程の改訂など労働基準法に影響する作業も発生します。

「法律は良くわからないので、そのまま。」とする訳にもいきません。どのようなことが法令違反となり、法令違反とならないためには、どのように移行を進めれば良いのかは社会保険労務士などの法律の専門家に確認しつつ検討を進めていきましょう。

ポイント(2)関係者の合意形成を疎かにしない

2点目のポイントは、関係者への合意形成となります。誰しも、分からないことには抵抗感を示すことは当然ですし、ましてや自分の生活に関わる内容です。本人にとってどんな有利な改定であっても十分な説明が無い場合は、不信感と反発を受けてしまい改訂の効果がマイナスになってしまいます。特に社員とのコミュニケーションは、賃金改定の検討に着手した頃からコミュニケーション計画を立て、時間をかけて賃金制度改定の理解と啓発を進めていきましょう。

また、見落としがちですが給与計算システムの設定は、限られた給与計算担当者の担当者が、現在の給与計算を回しながら、並行して新しい賃金制度の情報を設定し。正しく計算されるか検証することになります。毎月の給与計算が落ち着いたタイミングでシステムを設定しなければなりませんし、給与計算担当者の業務負荷が高い年末調整や年度更新といった給与計算の繁忙期も避ける必要もあります。特に給与計算業務をアウトソーシングしている場合は、急な設定変更を受け付けてくれない、特急料金が必要になる等もありますので、こちらも早めにコミュニケーションを取っておくことが重要になります。

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