改訂のチャンスはいつか?
どんなときが、賃金制度を改定するチャンスなのでしょうか?このような条件を満たしているときが賃金制度改定のチャンスです。
法改正があったとき
労働基準法をはじめとする各種法令は定期的に改正されます。法律の改正に対応することはもちろん必要ですが、法改正対応だけにとどめるのではなく、自社の現状にフィットする賃金制度に見直すことも検討してみましょう。
最低賃金が変更される毎年10月が、最も賃金制度を意識する法改正になります。「高年齢雇用継続給付」の給付内容の変更や「労働契約法」なども賃金制度に大きく影響を与えます。
組織変更をしたとき
組織変更が行われ職務分掌が見直されたり、主力事業の整理・再構築が行われたときも、賃金制度の見直しの良いタイミングです。
なお、人事制度は社内の序列を表現した「等級制度」、期待に応え成果の発揮度合いを確認する「評価制度」、序列や評価内容に応じて金銭で処遇する「報酬制度」は三位一体の関係にあります。
社内の格付けや序列を表現する「等級制度」が変更され、職務遂行能力の序列(職能等級)から、役割に求められる責任の重さの序列(役割等級)に変更された時などは賃金制度の変更も必要になります。
その他、社名を変更したときなど、「変わった」が見えるときがチャンスになります。
会社に余裕があるとき
賃金制度の見直しには、社内の合意形成の時間や、移行時の不利益緩和のための金銭補填が発生する可能性があります。
賃金カットの必要性に迫られているときは仕方がありませんが、可能であれば資金・時間に余裕があるときが、賃金制度改定のチャンスになります。
賃金制度を改定すると、賃金が増える人がいれば、賃金が下がる人もいます。賃金が下がる人の生活に影響を与えないように、激変緩和措置が必要になります。「激変緩和措置の予算が無い」とならない注意が必要です。
世代交代をしたとき
中小企業でよくありますが、世代交代が行われたタイミングも賃金制度改定の好機になります。
心機一転を従業員に意識させるために有効な手段になりますが、新米の経営陣は経営の経験が浅いのは当然ですし、功を焦り改革を急いてしまうのは人の性(さが)です。
しかし、権限移譲の状況や、従業員の人心掌握の状況をよく見極めながら、進行することがポイントになります。
「先代のやりかたは古い」という単純な反発心を動機に賃金制度を変えるのではなく「何を残し、何を変えるのか」世代を超えて話し合い、バトンタッチをしていくことが賃金制度改定を成功させるポイントです。
創業年・従業員数のキリが良いとき
創業10周年、従業員数30人を超えたときなど、「キリの良いタイミング」も、従業員に説明しやすく、賃金制度見直しに良いタイミングになります。
理由もない唐突な賃金制度は、従業員を不安にさせますので、理由付けは大切です。また「25人になったら賃金制度を作ろう!」というように目標に掲げることで、メンバーの意欲を喚起することもできます。
賃金制度の効果は?
賃金制度を明確にすることによる効果には、どのようなものがあるのでしょうか?
従業員側のメリット
ありがちな不満 ~ どうすれば給料が上がるの?
賃金の支給ルールが曖昧だと「気に入られた者が勝つ」と思われてしまい、お客様ではなく上司を意識して仕事をされてしまいます。
- どうすれば賃金が上がるのか明らかになり、動機づけになる。
- 賃金を上げるための方法が明確になるので、どのような行動をすれば賃金が上がるのかわかり、行動がしやすくなる。
- ルールが明確になっているので、「えこひいき」や、「不公平感」がなくなる。
会社側のメリット
ありがちな不安 ~ 総額人件費が上がりっぱなし
「何となく年齢に応じて昇給」をしていると、会社の業績が厳しくなったときに人件費をコントロールできなくなります。
- 賃金の決定方法に規則性が生まれるので、総額人件費の予測がしやすくなる。
- 特殊な形態の賃金テーブルを導入すると、総額人件費をコントロールできるようになる。
- 「基本給」と抽象的な賃金の項目ではなく、「年齢に対する賃金」「役割に対する賃金」など具体的な要素に対して、何円支払われるのか説明がしやすくなる。
- 賃金の単価(平均賃金など)の計算などを意識するようになり、未払い残業代のような残業対策など、労働の生産性を意識するようになる。
このように、賃金制度を制定することで、労働者側も経営者も働きやすくなるようになります。
賃金制度を作るにあたって注意すること
賃金制度を設計・改定するときには、どのようなことを注意しなければならないのでしょうか?賃金制度を改定するときの注意点を整理します。
一方的な変更はしない
採用時に会社側と従業員の間で、雇用契約書や労働条件通知書で、労働内容とその対価である賃金の額を契約して、雇用関係が発生しています。
雇用契約ですので、一方的な賃金の変更はできません。仮に賃金が減額される従業員については、不利益変更として判断される可能性があります。
従業員への説明やヒアリングは十分に行う
従業員にとって魅力的となる賃金制度であっても、従業員に検討の意図や経緯をきちんと説明しなければ、不安と不満を募らせ、従業員のモチベーションを低下させる可能性があります。(フェアプロセスの法則)
移行前ではなく、賃金制度改定の検討開始後から、定期的に従業員の意見をヒアリングし、検討の経緯を伝える仕組みを用意しましょう。
他社事例に頼りすぎない
賃金制度の改定をするときには、他社の事例は貴重な参考情報です。
しかし他社と自社では、会社の特長や経営環境が異なりますし、他社のマネをしても、他社以上になることはできません。
他社事例に傾倒しすぎず、自社にフィットした賃金制度をゼロから考えることが成功のポイントです。
現在の支給額と、新賃金テーブルの比較は慎重に行う
賃金テーブルを設計する際には、現在の賃金の支給実績と比較します。
しかし、賃金の支給額が変動しますので、特定の月の支給額のみを見ながら賃金テーブルを調整すると、いざ移行の時に、思った以上の昇給・降給となることがあります。
時間との兼ね合いになりますが、賃金テーブルを設計する際には、年間の平均、過去1年間の最高支給額など、何パターンかの実在データを比較しながら賃金テーブルを調整することがコツになります。
打合せの決定事項は記録をしておく(議事録を作っておく)
賃金制度を設計していくにあたって、プロジェクトメンバーで何度も討議を繰り返していくことになります。
討議中は参加者の智恵を持ち寄り良いアイディアが出てきますが、時間が経つと、検討の経緯や細かい検討結果を忘れてしまいがちです。可能であれば討議の都度、決まったことを記録しておきましょう。
就業規則・賃金規程の変更はもちろん、雇用契約書の更新も忘れない
賃金制度の設計が完了しても、「それで終了」ではありません。賃金制度を制定したら、就業規則・賃金規程を改定し、所轄の労働基準監督署に提出をしなければなりません。
就業規則・賃金規程の改定だけでなく、雇用契約書のアップデートも忘れてはいけません。労働組合がなく労働協約が結べない企業の場合、雇用契約書のアップデートを忘れてしまい、雇用契約の内容と賃金規程の内容が矛盾し、あとになって説明に困るということは避けるようにしましょう。
予告期間と移行期間を設ける
賃金制度を変更した場合、急激に所得が減少してしまう従業員が出てくる可能性があります。賃金は労働の対価であるのですが、従業員にとって貴重な「生活の糧」でもあります。
改定された賃金制度をいきなり実行するのではなく、従業員が生活設計を見直すための予告期間や、制度変更後に、一定期間減額分を補てんする調整給の支給など、救済措置のための期間を設けるようにしましょう。