賃金制度の進め方
「社内で賃金制度改定しようとしているが、なかなかうまくいかない。」というご相談の中には、いきなり役職手当や社宅手当の金額を決めると言ったように各論の議論を始めてしまい行き詰っている場合や、完成したが導入のことを考えていなかったという話もしばしば見受けられます。賃金制度の改定では、大まかに4つのステップを踏んでいきます。
賃金制度の設計では「自分たちで説明できる」ことが何より大切です。100点満点を目指すのではなく、少々物足りないくらいの制度を作り、継続的にメンテナンスをしていける制度の方が良い制度と言えます。
最初の足場固めが重要
賃金制度の改訂を成功させるためには、賃金テーブルの修正にいきなり着手するのではなく、会社の理念や人材マネジメントの方針をしっかり固めることを忘れてはなりません。
労働基準法と給与計算の視点を落とさない
ついつい忘れがちになってしまいますが、稼動後の運用負荷についても考慮しなければなりません。「賃金制度のコンセプトは良いが、毎月の給与計算実務で運用できない。労働基準法を始めとする法律に抵触してしまう。」となってしまっては、せっかく作った賃金制度も絵に描いた餅になってしまいます。
社会保険労務士法人アイプラスが支援する場合の、賃金制度改定の進め方をご紹介します。
賃金制度の設計の流れ
Step1:現状の分析と基本方針を決める
まずは会社として、新しい人事制度を導入することで何を実現したいのか「人材活用の方針」を決めていきます。方針を決めるために、①会社の理念(ありかた)や、今後の経営方針(何を目指し、優先するのか)の整理、②人事制度に対する社員の不満や意向の確認、③賃金や賞与の支給実態を知るための賃金分析をします。
3C・5Fのフレームワークなども活用し会社の競争優位性や、社長が言葉にできない、会社のビジョン・経営理念を明確にします。
現場の従業員が人事制度に対して、どのような意識を持っているのか、インタビューやアンケートを用いて確認していきます。
自社にとって良い仕事とは何か、どのような従業員をGood Job!と評価していくのかを整理していきます。
賃金データを用いて、年齢別役職別などの、様々な切り口で賃金の支払いの傾向や、自社の報酬の水準を確認していきます。
【詳細解説】Step1-1:現状分析と人材マネジメント方針を決める
「目的」「到達点」というと抽象度が高いものですが、「自社の強みは何か?」、「自社の強みを活かすにはどのような人に高い給料を払うのか?」を考えていきます。
【詳細解説】Step1-2:賃金分析のポイント
賃金データを使用し、年齢別役職別などの、様々な切り口で賃金の支払いの傾向を分析していきます。
会社の理念やコンセプトの整理
人材活用の方針を決めるための流れとしては、経営方針や経営計画を言語化していくことから始まります。なぜ、経営方針や経営計画が必要なのか?と思われるかもしれませんが、賃金制度を改定するときには、「何のために制度を変えるのか?」という問いを立てなければ意味のある賃金制度になりません。
人事制度に対する社員の意識の確認
2つ目の視点として、現場の課題や社員の不満や意見も確認していきます。
例えば、社員に対しては「実力もないのに中途採用者の方が、給与が高いのは納得いかない。」「仕事をしないオジサンが高い給料をもらっていて、頑張ろうという気持ちになれない。」「責任が重くなるのに残業代が付かず給料が下がるなら、管理職になりたくない。」というような定期面談や日常の会話から出てくる意見を集めていきます。
また、経営層からも「人件費が高止まりしていて、総額人件費が下がらない」「外部環境の変化に柔軟に対応できるように、人件費の管理に柔軟性を持たせたい」といったような意見を把握しておきます。
賃金分析
賃金分析では、在籍中の社員の年間の賃金・賞与のデータをもとに、縦軸を賃金(もしくは年収)、横軸を役職・職種・年齢・勤続年数といったような属性で散布図をつくります。作成した散布図を眺め、例えば「役職が上がると賃金は上昇するが、勤続年数が長くなっても賃金は上がらない」「部長職では年収の上限と下限で500万円差があり、部長の下限<課長の上限となっている」など自社ではどのように賃金が支給されているのかを把握していきます。
Step2:賃金体系・賃金テーブルを決める
Step1で決めた人材活用の方針を踏まえ、人件費の予算を、毎月支給する賃金、賞与、退職金があれば退職金の原資をどのように配分するか決めていきます。
賃金体系・賃金テーブルを決める段階は、①年収に占める賞与・毎月支払われる賃金の割合を決める、②次に、どのような名目で賃金は構成されるのか「賃金体系」を決めます。③3番目に、それぞれの賃金項目毎の支給額の基準である「賃金テーブル」(料金表のようなもの)を決め、④最後に、実在者に新しいルールで賞与・賃金を支払った場合、各社員に年収・月収がいくらになるのか試算し賃金テーブルを調整する。(賃金シミュレーション)という大きく4つのステップに分かれます。
給料の内訳の意味を議論していきます。どのような理由に対して支払われ、それが給与全体対して何割位を締めるのかを検討していきます。
賃金の要素ごとに賃金テーブル(賃金テーブルの形、ピッチ幅、昇格昇給の金額など)をを設計していきます。
作成した賃金テーブルを実際の従業員に当てはめ試算をしていきます。新旧の差額や支給状況を確認しながら、賃金テーブルを調整します。
【詳細解説】Step2:賃金体系・賃金テーブルを決める
現在の給料の内訳を考え、どのような理由に対して、給料の何割ぐらいが支払われているかを考えます。
賃金の構成・賃金体系の設計
はじめに年収に占める賞与・毎月の賃金の割合を決めていきます。「管理職は業績や成果を重視するために賞与を60%・賃金を40%とする。」や「営業職は賞与と賃金をそれぞれ50%とする」などを決めていきます。割合については、会社の特長や方針によって異なりますので、営業であれば賞与と賃金の割合は50%が正しいとは限りません。
割合を決めたら次に、賃金体系を決めます。賃金体系とは、職務遂行能力に支払われる“職能給”、就任している役職に対して支払われる“役職手当”、外勤が多い営業職に支払われる“営業手当”というように、どのような特徴に対して賃金が支払われるのか支給の根拠と、その手当の名称を決めていきます。
ちなみに、職能給が70%、役職手当が20%、営業手当が10%程度となるようにしたい。というように、賃金体系を決めるときにも、それぞれの支給項目の割合を決めていきます。
賃金テーブルの作成
賃金体系が決まれば次は、支給項目ごとに支給額を当てはめ、賃金テーブルを作成していきます。例えば、基本給は一律20万円とするというような一律の賃金テーブルとする、職能給は1年ごとに1マス(号棒“ごうぼう”と言います)ずつ進んでいく形とする、役職手当は、課長が1万円、部長は2万円とするなど、条件と紐づける形などがあります。絶対的な正解はありませんので、支給項目の意味合いを踏まえて決めましょう。
賃金シミュレーション
最後に、作成した賃金テーブルにもとづき、実在者に当てはめていく賃金シミュレーションを行っていきます。賃金シミュレーションでは、一人ひとりの現在の支給額と、新しい支給額を比較し、払い過ぎ・少なすぎを確認すること、新旧の制度での支給額のギャップ(急激な昇給や急激な減額がないか)、総額の人件費は何万円増額/減額するのか?を検証します。
一人ひとりの金額や総額人件費が想定した金額に近づかない場合は、賃金体系や賃金テーブルを修正し、再び実在者に当てはめ検証をするという作業を繰り返していきます。
Step3:制度移行と社員への周知
賃金体系と賃金テーブルが固まったら、制度の導入に向けて、移行方法を決めていきます。
制度移行で行う作業は、①いつのタイミングで新しい制度に切り替え、それまでにいつまでに何をするのか「移行のスケジュール」を作る、②経営陣、労働組合との合意形成、③社員に向けての説明会と、個別の賃金額を通知するための面談の準備、④就業規則・賃金規程などの規程類の変更、⑤給与計算システムの修正、賃金の金額が変わると社会保険料の金額も変わりますので、社会保険の月額変更(随時改定)の届出の準備を行っていきます。
従業員の生活に影響しないよう、どのように新制度に移行させていくのかを検討していきます。
賃金規程の更新や、従業員に向けた「制度改定の趣旨」や「新しい賃金制度のポイント」がわかる説明資料を用意します。
新制度の説明や、要望を確認するなど組合との調整の他、役員会での承認を取ります。
従業員に向けの新しい制度の説明会の開催の他、1人1人に対して新制度における賃金額や今後期待する役割を伝えていきます。
【詳細解説】Step3:制度移行と社員への周知
賃金規程の更新は必須ですが、日々忙しい現場のメンバーに向けて、制度改定の趣旨や新しい賃金制度のポイントが簡単にわかる説明資料やハンドブックを用意します。
Step4:行政機関(労働基準監督署)への届出
新しい賃金制度に変更したら、就業規則や賃金規程の変更を行い労働基準監督署に提出する必要があります。
新しい賃金制度に変更したら、就業規則や賃金規程の変更を行い労働基準監督署に提出する必要があります。
助成金を取得することを目的としては本末転倒ですが、賃金制度の変更により助成金が申請できる可能性が出てくることがあります。
せっかく整備した賃金制度も、きちんと給与計算ができなければ形骸化してしまいます。給与計算のシステムの設計や移行の準備を行います。
【詳細解説】Step4:賃金規程の改訂ポイント
新しい賃金制度に変更したら、就業規則や賃金規程の変更を行い労働基準監督署に提出する必要があります。