賃金の構成要素となる「年収における賞与と月給の割合」や「月給の内訳」を考え、賃金テーブルの素案を作ります。

人材マネジメント方針や賃金分析の結果を踏まえ、どのような仕事の価値に対して、給料の何割ぐらいが支払われるかを考えます

賃金の構成・賃金体系の設計

賃金の構成・賃金体系の設計

はじめに、年収に占める賞与・毎月の賃金の割合を決めていきます。

  1. 賞与と毎月の給与の割合はどの程度とするか?
    (例:管理職は業績や成果を重視するために賞与を60%・賃金を40%とする。など)
  2. 毎月の給与のうち、年齢や能力に対して支払われる割合は、どれくらいか?
    (例:能力に応じて昇給する能力給を月給の70%とする。など)
  3. また、役職や責任に対して支払われる割合は何割くらいか?
    (例:役職、担当職務に手当を支給する。など)

を決めていきます。年収に占める賞与と月給の割合は、会社の特長や、人材マネジメント方針によって異なります。業界の水準や同業他社の割合が「営業であれば賞与と賃金の割合は50%」となっていても、その割合が正しいとは限りません。

次に、賃金体系を決めていきます。賃金体系とは、職務遂行能力に支払われる「職能給」、就任している役職に対して支払われる「役職手当」、外勤が多い営業職に支払われる「営業手当”というように、どのような特徴に対して賃金が支払われるのか支給の根拠とその手当の名称(支給項目)を決めていきます。

ちなみに、賃金テーブルを決めると言っても、いきなり具体的な金額を定めるアプローチは良いアプローチではありません
議論の流れは「職能給が70%、役職手当が20%、営業手当が10%程度となるようにしたい。」というように、年収や月給に占める、基本給部分や各手当の割合を押さえていくと、議論がしやすくなります

賃金テーブルの作成

賃金体系が決まれば、支給項目ごとに具体的な支給額(金額)を当てはめ、賃金テーブルを作成していきます。例えば、

  • 基本給は、一律20万円とする。
  • 職能給は、1年ごとに1マス(号棒“ごうぼう”と言います)ずつ進んでいく形とする。
  • 役職手当は、課長が1万円、部長は2万円とする。

など、条件と紐づける形などがあります。絶対的な正解はありませんので、支給項目の意味合いを踏まえて決めていきます

どのような賃金テーブルにするのか?決める際にも「なんとなく」は控えましょう
賃金制度は、従業員に対してどう頑張れば、収入が上がるか?を伝えるメッセージです。賃金テーブルには「なぜなら~という理由だから。○○というテーブルの形・金額になる」と理由を決めておくことが大切です。

賃金テーブル作成の手順

賃金制度の設計思想を踏まえて、具体的に賃金体系(基本給や役職手当など)は、どのような支給項目で賃金が構成されるのか、それぞれの支給項目はどのようなテーブルとするのかを決めていきます。

(1)「賃金の構成要素」(賃金体系)と「月給に占める割合」を考える

最初に、年収における「賞与と毎月支払われる賃金の割合」「それぞれの職種・役職の最高・最低年収額」を決めていきます。

賞与は「会社業績、部門業績、個人業績によって左右されるものであり、ゼロということもありえる。」一方で、賃金は「ある程度決まった金額が毎月固定的に支払われる年収の最低保証額」というイメージでとらえると良いでしょう。

当然に、営業部門の社員や、役職の高い者など業績責任を負う者については賞与の割合を高くし、経験の浅い者や内勤の職種であれば、年収の総額は低いが、年収に占める賞与の割合は低くなる。というようにバランスを決めていきます。

内勤者は賞与のインセンティブが働きにくいという意見もあります。もちろん、内勤者は賞与の割合を弱くすることが絶対的な正解ではなく、「内勤部門は直接部門を支援する役割なのだから、賞与は会社業績と強く紐づける。」といった考え方でも構いません。会社の文化や経営方針に従って自由に割合を決めていきます。

注意点:急な方針変更には、従業員はついていけない

賃金の構成を考えるときに、注意したいことは、現状の賃金と賞与の割合も踏まえ、新しい割合を決めていきましょう


たとえ、成果重視の経営方針に舵を切ったとしても、これまで年収の9割超が賃金であり、賞与も固定額であったら、いきなり業績に連動させて、賞与の割合を年収の50%としたとしても、社員はついてきません。数年を掛けて、徐々に割合を変えていくなどの調整は必要になります。

注意点:「総額人件費のコントロールのしやすさ」も忘れない

また、総額人件費のコントロールのしやすさも考えていく必要があります。


安定を重視する方針であるといっても、仮に年収の95%が年収の最低保証の賃金であると、会社の業績が厳しくなっても人件費(賞与)で調整することができなくなり、会社の資金繰りや財務のコントロールが難しくなります

急激な外部要因が悪化したとしても、総額の人件費を調整できるように、賞与の割合はある程度は設定しておくべきと考えます。

賃金制度だけを視界に入れて検討した結果、視野狭窄となってしまうと、新しい制度が会社の毒になりかねません。賃金制度を設計するときには、経営の視点や、経営センスを持って議論できる体制を整えることも忘れてはなりません。

(2)賃金体系・賃金テーブルの目的を決める

年収の構成を決めたら、次は賃金の内訳を決めていきます。

賃金の内訳とは「どのような能力・頑張りに対して賃金を支払うのか?」また、「そのウェイトは賃金の何割を占めるのか?を検討していきます。

たとえば「勤続15年の37歳の社員」と「勤続3年の58歳の社員」のどちらをベテランと呼ぶか?と考えた場合、高年齢者をベテランと呼ぶ場合は「年齢給」という年齢に応じて昇給する仕組みになり、勤続年数が長い者をベテランと呼ぶ場合は「勤続給」という勤続年数に応じて昇給する仕組みになります。

また、賃金は「柱となる支給項目」と「支給項目を補完する手当」で構成されます。支給項目は「身上に紐付く」場合と「仕事に紐付く」場合に分類でき、それぞれメリット・デメリットがあります。一般的には以下のように整理されます。

身上に紐づく賃金項目(例)

 概要メリットデメリット
年齢給加齢に応じて昇給していく賃金年長者を敬う風土が醸成されやすい。年齢基準のため客観的。能力や勤続年数にかかわらず昇給をしていくため、優秀な若手・社歴の若い人材が不満を持つ。
勤続給勤続年数に応じて昇給していく賃金長期勤務が奨励される文化になる。長期間在籍さえすれば昇給すため能力獲得の動機づけが起こりにくい。
職能給保有している職務を遂行していく能力に応じて昇給していく賃金能力開発の動機づけが働きやすくなる。職務遂行能力を蓄積すれば昇給するため、能力を発揮していなくても賃金が上昇する年功的な制度になる。

仕事に紐付く賃金項目(例)

 概要メリットデメリット
職務給「人事課長」や「営業部長」など担当するポジションに対して支払われる賃金職務に対して、賃金が決定しているため、総額人件費のコントロールが容易となる。職務が変更されない限り昇給は起こらない。異動により現状より低い職務に変更された場合は降給になる。
職責給「職務に紐つく責任」に対して支払われる賃金責任を果たしている程度にもとづくため、同一職務であっても成果の有無によって賃金に差をつけられる。職責という概念がわかりにくく公平な評価が行いにくい。
役割給「職務」と「職責」の両方の観点から導いた「期待する役割」に対して支払われる賃金職務給・職責給の弱点をカバーできる。わかりやすさに難があり、裁量の余地を生んでしまう。また、期待する役割が何か言語化することが難しい。

手当は支給項目では表現できない仕事に対する金銭的な価値を表現するものになります。手当も家族手当のように身上に紐付く手当と、危険作業手当のような仕事に紐付く手当に分類できます。

身上や地理的条件に紐付く手当(例)

手当名趣旨・目的(例)検討の視点
家族手当扶養家族のいる者の生活費の補助のための手当同じ能力を有していても、家族の人数次第で収入が変わることを、どこまで許容できるのか検討する必要がある。
住宅手当住宅の賃料に応じて支給される手当割増賃金の対象から除外される手当ですが、支給基準の設定を誤ると除外されなくなる。
通勤手当通勤に要する費用を補助する手当毎月の支給額の上限や、虚偽の申告をどのように防止するのかを検討する必要がある。
寒冷地手当雪国の地域に赴任する労働者に支給する手当。いわゆる灯油代と解釈することが多い。通年で支給するのか、冬季のみ支給するものなのかを検討する必要がある。

職務内容や業務に紐付く手当(例)

手当名趣旨・目的(例)検討の視点
資格手当保有資格に対して支給する手当あらゆる資格に対して支給するか否か(範囲の問題)の他、取得時の一時金とするのか、毎月支給するのかを検討する必要がある。
危険物取扱手当人体に危険な薬品や、危険な機材を使用する者に支給する手当資格を有してだけで支給するのか、それとも実際の業務を担当している時のみに支給するのか支給条件を明確にする必要がある。
機密手当会社の機密情報を扱う者に支給する手当会社の機密を扱う者ということを意識づけるためには有効な手当ですが、役割給や職務給に機密保持が含まれている場合は、重複支給になる。
出張手当出張をした者に支給する手当日帰り出張の場合や、どの程度の遠隔地に出張した場合に支給するのかなど基準作りが必要になる。

(3)賃金テーブルの形と金額を定める

 何に対して賃金を支払うのか、支給項目と手当の内容が決ると、次は、支給項目・手当ごとに、どんな基準になると何円支払われるのかを決め、賃金テーブルと呼ばれる、いわゆる料金表を作っていきます。

 賃金テーブルには、いくつかのパターンがあります。

  • 1つ目は、「基本給18万円」という一律の金額でつくられるテーブル
  • 2つ目は、「役職手当は課長1万円・部長2万円、A評価は+10,000円、B評価は+5,000円」というように条件に紐付くテーブル
  • 3つ目は、「A評価だと3号棒(3マス)進む、B評価だと2号棒(2マス)進む」というような、すごろく形のテーブル
  • そして、「外勤手当は、5,000円×外勤日数」という掛け算の形のテーブル

があります。どのような形を選んでも構いませんが、どう頑張れば昇給するのか伝わりやすくなるよう、あまり複雑にしないことが大切です。


賃金テーブルには、いくつかの種類があります。それぞれの特長を踏まえ、賃金の項目・手当の性格とフィットする賃金テーブルを選定していきましょう。

賃金テーブルの形には

  • 号俸型
  • 段階号俸表型
  • 昇給表型
  • 複数賃率表型
  • 職種別号俸表型
  • 段階号俸表型+等級別移動号俸数型

などがあります。

(4)「昇格昇給」と「習熟昇給」とのバランスを定める

等級やグレード(いわゆる格付け)に紐付く賃金テーブルの場合、上位の等級の金額との「差の付け方」にも配慮が必要になります。

「下位の等級の最高額<上位の等級の下限額」となっていた場合は、昇格・昇進しても給与が上がる(「昇格昇給」と言います)ようになっていと、昇進しよう!という動機付けになりません

一方で、隣接する「下位等級の最低額」と「上位等級の上限額」は決まっていますので、等級間の格差をつけすぎると、それぞれの等級の上限・下限額の幅が取れなくなってしまいます

同一等級での上限額と下限額の幅(レンジ幅)が小さいと、同じ等級で腕が上がった(「習熟昇給」と言います)としても給与が上がらなくなり、同じ等級の中で、何年もいるベテランと昇格・昇進したての者との賃金差をつけにくくなります昇格昇給と習熟昇給のどちらを優先するのか”さじ加減”も考えていきます。

(5)賃金テーブルを作成していきます

どのような、賃金の要素で構成されているか決めたあとは、それぞれの賃金の要素ごとに賃金テーブルを設計していきます。

賃金テーブルの形、ピッチ幅、昇格昇給の金額などを決めていきます。

賃金テーブルを上手に作成するポイント

ポイント(1)欲張らず的を絞る

このステップでのポイントは、ズバリ「欲張らない」「的を絞る」ことです。

賃金制度を設計する際には、実在者の働きぶりをイメージしながら検討をしていきます。議論を進めていくと、「家族にも配慮したい」「資格取得を奨励したい」「外勤者に配慮したい」など、様々な要望が出てきますが、全てを支給項目や手当としてしまうと「何をすれば給料が上がるのか?」というメッセージが曖昧になってしまいます。
(例えば30万円の賃金が30個の手当で構成されている場合は、1手当当たりの平均額は1万円ですが、3個の手当であれば1手当当たりの平均額は10万円となります。)

柱となる支給項目や手当の数は、多くても5個程度で構成されるように、何をすれば給与が上がるのか?的を絞っていきましょう。

ポイント(2)同業種の他社事例は気にしない

賃金制度の改訂では、同業他社の事例は一旦忘れ自社の人材マネジメント方針を頼りに制度を作っていくことが何よりも大切です。

不動産業界を例にとってみましょう。投資用の物件を専門に扱う不動産会社で「ベテランも新人も関係なく単年度勝負を重視」とする方針であれば、勤続年数によって年収が積みあがる制度ではなく、賞与やインセンティブの割合が大きく、毎月の賃金自体も毎年更改をする形になります。

一方で、大家さんと10年単位で関係を築く「地域密着の不動産賃貸業」であれば、1人前になるまでの10年程度は横並び・年功的に昇給をさせ、1人前になったら、①部下を束ね組織で利益を生み出すことを目指す店長コース、②プレイヤーとして、個人の成績を重視するコース、③内勤で契約書類を正確に作るスタッフのように、インセンティブは少ないが安定を重視するキャリアを望むコースを作りキャリアの選択肢を持たせる賃金制度になります。同じ不動産業であっても会社の方針によって、賃金制度の形も大きく変わってきます。

賃金シミュレーション

最後に、作成した賃金テーブルにもとづき、実在者に当てはめていく賃金シミュレーションを行っていきます。

賃金シミュレーションでは、一人ひとりの現在の支給額と、新しい支給額を比較し、払い過ぎ・少なすぎを確認すること、新旧の制度での支給額のギャップ(急激な昇給や急激な減額がないか)、総額の人件費は何万円増額/減額するのか?を検証します。 

一人ひとりの金額や総額人件費が想定した金額に近づかない場合は、賃金体系や賃金テーブルを修正し、再び実在者に当てはめ検証をする。という作業を繰り返していきます。

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