「目的」「到達点」というと抽象度が高いものですが、「自社の強みは何か?」、「自社の強みを活かすにはどのような人に高い給料を払うのか?」を考えていきます。

「賃金制度」と聞くと、号俸テーブルの作り込みをイメージしがちですが、実はそれは一つの工程であって、賃金制度改定はもっと多くのテーマを検討していきます。

会社の理念やコンセプトの整理

自社の環境分析・強み弱みの分析を行う

最初は、賃金制度をどのように改定するべきなのか?目的や到達点を明らかにしていきます。

「目的」「到達点」というと抽象度が高いものですが、「自社の強みは何か?」、「自社の強みを活かすにはどのような人に高い給料を払うのか?」を考えていきます。

自社の強みを明確にするには、中小企業診断士や経営コンサルタントも用いる3C分析・5Fなどの枠組みを活用し会社の競争優位性を整理していきます。

3C分析とは

3C分析とは、「市場(customer)」「競合(competitor)」「自社(company)」の頭文字を取った、自社を取り巻く環境の中から、自社が勝ち残るカギを発見するための分析方法です

5F分析とは

5F分析とは、マイケル・ポーターが提唱した、自社の業界構造を5つの力として整理するための枠組みになります。
業界構造の5つの力とは、
1.既存競合者同士の敵対関係
2.新規参入の脅威
3.代替製品・代替サービスの脅威
4.買い手の交渉力
5.供給者の支配
になります

人事制度に対する社員の意識の確認

現場で働く社員が人事制度に対してどのような意識を持っているのかを調査をすること大切です。

現在の処遇に関する1人別のインタビューや、グループヒアリングも行う事ができます。また、人事制度に関する意識調査や満足度調査などのアンケートも意味があります。

現場に対して「賃金制度はどうあるべきですか?」と聞いても、「もっと給料を上げて欲しい」と言われてしまいます。アンケートやインタビューを行う場合は、このようにならないよう、設問を設計していくことがポイントになります。

また、インタビューや調査の結果が、会社全体の相違なのか、それとも対象者の個人的な意見なのか、見極めることも重要なポイントです。

人材活用の方針(人材マネジメントポリシー)の検討

人材活用の方針(人材マネジメントポリシー)を検討していきます

人材をどのように活用していくのか、自社にとって良い仕事とは何か、どのような従業員をGood Job!と評価していくのかを整理していきます。そもそも、貴社にとって「いい仕事」とは何なんでしょうか?

・どんなに汚い手を使っても売上を上げる社員が「良い仕事」をした社員でしょうか?
それとも、仕事は丁寧な社員だが、売上が上がらない社員の方が「良い仕事」をしているのでしょうか?

・はてまた、社員はスペシャリストを育てていく方針なのでしょうか?
それとも、全員野球を目指すゼネラリスト志向を目指していくべきなのでしょうか?

このように、「どちら”も”重要」ではなく、「どちら”が”重要」なのかを考えていきます。

弊社では、人材マネジメントの価値軸をもとに、どのように人を処遇していくのかを検討していきます。

(1)事業の方針を具体的に書き出す

賃金制度を改定するにあたって、会社の方針や強みを踏まえ、人材活用の方針を決めていくことが、制度設計の拠り所となり一番大切になります。しかし、人材活用の方針と言っても、どの程度の粒度感で、どのように言葉にしていけば良いのかなかなかつかみどころがないと思います。人材活用の方針を抽出するには以下のような手順で編み上げていきます。

まずは、人材活用の方針の前提となる、自社の事業の方針を見つけていきます。

「外部環境」「自社の特長」「人事課題」などについては、一人でデータを眺めていても具体的な言葉にはしにくいものです。こういったテーマについては、幹部社員で集まり「自社を取り巻く機会や脅威は何か?」「自社はなぜお客様に選ばれるのか?」というようなストレートなテーマでアイディア出しをしていきましょう。その時には、質より量にこだわり、付箋などに書き込んで模造紙に張り出していくといったやりかたで進めていくと比較的キーワードは出やすくなります。

 ある程度、意見が出そろったら、今度は事実にもとづいた内容か主観的な意見なのか付箋を取捨選択していきます。主観的な「つもり」の情報と、客観的な「はため」の情報が混ざった状態となっていますので、客観的に見た「はため」の情報に絞り込んでいきましょう

 情報を絞り込んだら、自社の事業の方針や強みを端的に言い表す作業に移ります。例えば、「どのようなお客様であっても受け入れる介護施設になる」や「〇〇市のことについては、どの企業よりも一番詳しい不動産屋となる」や「脱下請けを目指し、一次請けの仕事だけで経営できる建設会社となる」「新しい自動車技術に対応できる。技術も設備も最先端の自動車整備会社を目指す。」「スタッフ一人ひとりの最高の教養と、実体験にもとづいた助言で、お客様の意思決定を後押しする法律の専門会社を目指す。」といったような、自社の特長・方針を出来るだけ具体的に絞っていきます。

「お客様の笑顔のため」や「地域一番店を目指す」といった他社でも書かれそうな内容ではまだ抽象度が高く、次の「人材活用の方針」につながりません。事業の方針に「それは、御社のことですね!」と言われるような具体的な内容を目指しましょう。

(2)事業の方針を踏まえ、「人材活用の方針」を決めていく

 会社の方針が言葉に出てきたら、事業の方針を実現するために、賃金制度ではどのようにメリハリをつけていくのか人材活用の方針のキーワードを書き出していきます。

例えば、「年齢や勤続年数より仕事の成果を優先する」「個人成果よりチームの貢献を優先する」「35歳での卒業・自立を促す」などです。難しいスローガンを書こうとするのではなく、普段の「話し言葉」で書き出していくことがポイントです。
 なお、これらの人材活用の方針は賃金制度だけでなく、等級・評価といった制度の他に、採用や教育、福利厚生といった施策の方針としても使用します。

(3)「人材活用の方針」を踏まえ、賃金制度の設計思想を決める

「人材活用の方針」が決まるとようやく、賃金制度の設計思想を決める段階になります。「人材活用の方針」の書き出したキーワードを眺めると賃金制度の設計方針が見えてきます。

例えば、「年齢や勤続年数より仕事の成果を優先する」とあれば、勤続年数や年齢で段階的に昇給する仕組みではなく、評価の結果次第で賃金が上下する賃金制度となりますし、「個人成果よりチームの貢献を優先する」とあれば、賞与は個人業績よりもチーム業績に紐づいて支給されることになります。

また、「35歳での卒業・自立を促す」となれば、35歳の賃金の支給額や退職金係数が最大となり、35歳までは自立ができるよう獲得した能力に応じて昇給する仕組みとなるでしょう。(もちろん、教育制度も35歳での自立を前提とした教育テーマとなります。)

繰り返しになりますが、ここで決めるべき方針が曖昧なまま具体的な賃金制度を設計するとなると、手戻りの発生や、導入しても会社の良さが発揮できなくなってしまうこともあります。この段階で、どのような賃金制度を設計するのか十分な議論をしておくことが、賃金制度の導入を成功させる重要なポイントになります。

人材活用方針が制度設計のカナメ

「賃金制度を作る」と聞くと、手当の金額についていきなり考えたくなりがちですが、いきなり各論に飛び込むのではなく、賃金制度を改定する目的・方針を考えていくことが賃金制度改訂の大きなポイントです。

目的・方針と聞くと難しそうですが、①自社を取り巻く環境・自社の強み・自社の経営戦略はどうなっているのか、②現状の処遇(主に賃金制度)の課題は何か、③社員の賃金制度に対する要望や不満を「人材活用の方針」として具体的に言葉に落としていくことが大切です。

自社の特長とは、自分たちでは当たり前すぎるため、自分たちだけで言語化することは難しいものです。検討をする際には、幹部社員で合宿をしたり、外部のコンサルタントやファシリテーターの力を使い言語化していくことが望ましいです。

まとめ:ビジョン・経営理念が決まらないと制度も固まらない

会社の理念やコンセプトが十分に整理できていないまま検討を進めると、完成して運用してみたときに、思いどおりの効果が得られなかったということもあります。

ビジョン・理念とは優先順位であり判断基準となるものです。会社として何を優先するかがあってはじめて、どのような働き方に対して、手厚く処遇するのかが決まります。

概念論であるのでイメージが付きにくく、急いで前に進みたい気持ちがありますが、この工程をしっかりと固めることが最初の成功のポイントになります。

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