賃金制度設計のキーワード

 

賃金の項目・手当の種類と特長

「賃金」の中にも、支払われる意味合いによって、さまざまな項目や手当があります。それぞれの意味と特長を理解し、賃金制度を設計していきましょう。 身上に関する賃金項目・手当(例)

項目名 概要 メリット デメリット
年齢給 加齢に応じて、賃金が昇給していく給与・手当 年長者を敬う風土が醸成されやすい。 能力や勤続年数にかかわらず昇給をしていくため、優秀な若手・社歴の若い人材が不満を持つ。
勤続給 勤続年数に応じて、賃金が昇給していく給与・手当 長期勤務を奨励できるようになる。 長期間在籍するだけで、昇給が進むため、能力獲得の動機づけが起こりにくい。
家族給 家族構成に応じて、賃金が昇給していく給与・手当 生活の保障の要素が強まるため、従業員は安心して仕事に専念できるようになる。 同じ条件・能力であっても、世帯持ち・子持ちの人材の方が優遇されるため、仕事基準で見たときに不公平感が残る。
職能給 保有している職務を遂行していく能力に応じて、賃金が昇給していく給与・手当 能力開発の動機づけが働きやすくなる。 職務遂行能力を蓄積すれば昇給するため、能力を発揮していなくても賃金が上昇する年功的な制度になってしまう。

 

仕事に関する賃金項目・手当(例)

項目名 概要 メリット デメリット
役割給 「職務」と「職責」の両方の観点から賃金を決定する給与・手当 職務給・職責給の弱点をカバーできる。 2つの視点を持っているため、わかりやすさに難があり、裁量の余地を生。
職務給 「人事課長」や「営業部長」など担当するポジションに対して支払われる給与・手当 職務に対して、賃金が決定しているため、総額人件費の把握がしやすい。 職務が変更されない限り昇給は起こらない。異動により、職務が現状より低い職務に変更された場合は降給になる。
職責給 「職務に紐つく責任」に対して支払われる給与・手当 同一職務であっても、成果を出している者と、職務にあぐらをかいて成果を出していない者で賃金に差をつけられる。 職責という概念がわかり辛く、公平な査定・評価が行いにくい。
業績給 生み出された成果に対して、支払われる給与・手当 成果に対して支給されるため、競争を促しやすい。 生活の安定を脅かしやすい。

    賃金の項目の効果

それぞれの賃金の項目のみの、賃金の変化をシミュレートしてみてみましょう。 人に紐付く賃金体系のみの場合(年齢給のみの賃金で例えると)

  • 年齢給のみの賃金体系を運用していくと、65歳の時点が最も給料が高い状態になります。
  • 加齢による衰えが全く考慮されていませんので、たとえば、若さが価値である、体力勝負の仕事や、アイドルのような容姿や若さが価値となる仕事では、年齢給を多用すると実態とはかい離した賃金制度になってしまいます。
  • また、新卒で入社した勤続10年目のエースより、64歳で入社した未経験者の方が賃金が高いことになります。

仕事に紐付く賃金体系のみの場合(職務給のみの賃金で例えると)

  • 職務給のみの賃金体系を運用すると、「人事部長は月30万円」「営業主任は月21万円」など職務に応じて賃金が支給されます。
  • そのため、どの職務に着任すると賃金がどの程度になるのかが明確になります。一方で、「月21万円もらっていた営業主任が、月20万の物流主任の職務に異動」した場合は、降給となってしまいます。
  • 日本人の性格・国民性では、職務給制度を、厳密に運用させることは難しく、結局はなし崩しとなってしまうリスクをはらんでいます。

 

  昇給とは

昇給には、2つのパターンがあります。 ・習熟して昇給するもの ・昇格して昇給するもの 役割や職責に応じた賃金テーブルを設定した場合には、 「昇給の総額」=「習熟による昇給」+「昇格による昇給」のバランスも検討する必要があります。

 

昇給のパターン

このように、単独の賃金の要素・手当を単純に積み上げていくだけでは、納得感があり、合理的な賃金制度とは言えません。 そのため、賃金テーブルを変形させていき、納得感を高めていきます。

  • 積み上げ型
  • メリット昇給型
  • 洗い替え型
  • 収束型
  • 中央収束型

    賃金テーブルの種類(例) 賃金テーブルには、いくつかの種類があります。それぞれの特長を踏まえ、賃金の項目・手当の性格とフィットする賃金テーブルを選定していきましょう。

  • 号俸型
  • 段階号俸表型
  • 昇給表型
  • 複数賃率表型
  • 職種別号俸表型
  • 段階号俸表型+等級別に移動号俸数型

 

  賃金テーブルと上位等級の重複

昇格昇給をさせた場合の上位等級との接続をどのようにするかも検討が必要です。

  シングルレート型 接続型 開差(かいさ)型 重複型
  賃金テーブル_シングルレート型 賃金テーブル_接続型 賃金テーブル_階差型 賃金テーブル_重複型
概要 同一の等級であれば、昇降給が起きない状態。 等級の最高賃金が、上位等級の最低賃金と一致している状態。 等級の最高賃金が、上位等級の最低賃金”未満”になっている状態。 等級の最高賃金が、上位等級の最低賃金よりも高額になっている状態。
メリット 1等級に1つの賃金額しかないため、管理がシンプルになる。 同一の等級内で、昇給を発生させることができ、同一等級内での習熟による昇給の幅を大きく持たせることができるため、昇格なしでも、所得の増加感を与えることができる。 昇格すると、大きく昇給するため。昇格のインセンティブ、昇格実感を与えやすい。 上位等級に昇格するときに、賃金の当てはめが行いやすい。 (例:抜擢登用した場合に、下位等級の年長者より賃金を低く設定できるなど)
デメリット 同一等級にいる限り昇給が起こらず、年功的意識が高い場合、モチベーションは低下する可能性がある 。 上位等級との賃金差がないため、昇格のインセンティブが階差型より働きにくい。 開差を持たせるため。等級内での上限・下限の幅(習熟による昇給の幅)は小さくなる。 等級間での賃金の逆転現象が起こる可能性がある。

 

経営戦略と賃金制度の連動

会社の戦略が異なると賃金体系も変わってきます。自動車整備工場の例にとって考えてみましょう。

  • 自動車業界をとりまく環境は大きく変化してきています。ガソリンカーの時代から、電気自動車が台頭してきています。また、昔と比べて自動車自体も故障が少なくなってきていますし、若者の自動車離れも深刻になってきます。これからの自動車整備工場も時代の流れに適応していかなければなりません。
  • それぞれの戦略に応じて、賃金制度も構造も変わってきます。
ビジョン 新技術に対応する戦略を取る ライフプランナーを目指す戦略を取る 安さ1番を目指す戦略を取る
経営方針 新技術の整備・修理に特化し、収益を稼ぐ。 昔からのお客様と積み重ねた関係性を活かし、紹介やリピートで収益を稼ぐ。 安い単価で、大量の案件をこなし、 収益を稼ぐ。
お客様の評価 「少々高いが専門的」 「私たちのことをよく分かっている」 「ほかより安い」
月給を 構成する要素 新規の技術を獲得し、他社でできない最新の技術を提供していかなければなりません。新技術の知識や資格を積極的に獲得していく人材を確保していくことになります。

  • 学歴・資格
  • 職務遂行能力
顧客との長い付き合いを積み重ね、お客様が意図する前に先手を打った提案ができるようにしなければなりません。ある程度の依頼は独力で処理できる人材を確保していくことになります。

  • 勤続年数
  • 職務遂行能
安さを追求するので、人件費は安く維持しなければなりません。業務を標準化して、人件費の安い人材を確保していくことになります。

  • 職能(専門職)
賞与を構成する要素 技術獲得の投資をせざるをえないので、賞与では個人の成果よりも会社の業績を優先して加味していきます。

  • 会社業績・出来高
会社全体で、お客様と接することも必要ですので 賞与に会社業績を加味する。担当顧客のリピート率、紹介件数・クレーム件数で、個人業績を評価・査定し、賞与に反映します。

  • 会社業績・出来高
  • 個人業績・出来高
自分の担当の仕事の効率(ミス件数・作業件数)で賞与の額を査定していきます。

  • 個人業績・出来高
その他 職務遂行能力は、「新技術の整備に関する能力」を定義することが求められます。 職務遂行能力は「お客様とのコミュニケーション能力」を定義する必要があります。 同一の仕事をしている限り、昇給はしない。

 

各種手当を考えていく

賃金制度を設計すると「家族手当」や「資格手当」などを整備するか議論になります。
手当を作りすぎると、本来の目的の「どんな価値に対して賃金が支給されるのか」会社のメッセージが曖昧になってきます。目的を考えて設定していきましょう。

例えば、このような手当が考えられます。

 

身上に紐付く手当、地理的条件に紐付く手当の例

手当名 目的(例) 検討の視点(例)
家族手当 扶養家族のいる者の生活費の補助 同じ能力を有していても、家族の人数次第で収入が変わることを、どこまで許容できるのでしょうか?
住宅手当 住宅の賃料に応じて支給される手当 割増賃金の対象から除外される手当ですが、支給基準の設定を誤ると除外されなくなります。
通勤手当 通勤に要する費用を補助する手当 毎月の支給額の上限や、虚偽の申告をどのように防止するのかを検討する必要があります。
寒冷地手当 雪国の地域に赴任する労働者に支給する手当。
いわゆる灯油代と解釈することが多い。
通年で支給するのか、冬季のみ支給するものなのかを検討する必要があります。
海外赴任手当 海外赴任者に対する手当 赴任先地域や金額を検討する必要があります。
地方赴任手当 地方に赴任する者に対する手当 地方に駐在する不便さに対する弁済的な位置づけなのか、それともガソリン代や光熱費の補助なのか目的を明確にしましょう。

職務内容に紐付く手当、業務に紐付く手当、その他手当の例

手当名 目的(例) 導入することのメリット(例)/検討の視点(例)
資格手当 保有資格に対して支給します あらゆる資格に対して支給するか否か(範囲の問題)と一時金とするのか、毎月支給するのかを検討する必要があります。
危険物取扱手当 人体に危険な薬品や、危険な機材を使用する者に支給する手当  資格を有してだけで支給するのか、それとも実際の業務を担当している時のみに支給するのか、支給条件を明確にする必要があります。
指導員手当 後輩のOJTを担当する者に支給する手当

社内の後輩育成の意識を醸成するためには有効な手当ですが、そもそも、「先輩は後輩を指導する役割」であれば、わざわざ支給する必要はありません。

機密手当 会社の機密情報を扱う者に支給する手当

会社の機密を扱う者ということを意識づけるためには有効な手当ですが、役割給や職務給に機密保持が含まれている場合は、重複支給になってしまいます。

出張手当 出張をした者に支給する手当 当初は食事代や土産代の補助の性格が強いが、日帰り出張の場合や、どの程度の遠隔地に出張した場合に支給するのかなど基準作りが必要になります。
宿直手当 宿直を行った者に支給する手当 宿直勤務を奨励する場合に有効な手当ですが、基本給や他の手当とのバランスを調整する必要があります。
部下掌握手当 上司が部下を理解し、人心を掌握するための手当 部下との親睦を深めるために、必要な費用の支援で支給する手当です。しかし、優先順位や手当の用途を検討する必要があります。
禁煙手当 禁煙を宣言した労働者に支払う手当 禁煙する者に支給する手当ですが、個人の自由時間である就業時間外の喫煙にまで関与するべきか検討する必要があります。

 

手当を作れば残業代(時間外の割増賃金)は節約できるのか?

残業代を計算する際には、各社員の1時間当たりの賃金額を計算しなければなりません。この際に基本給の他に手当も含まなければなりません。
ただし、以下の手当のみは、残業代計算の基礎から除外することができます。(労働基準法第37条第5号、労働基準法施行規則21条)

手当名称 注意すること
家族手当 扶養家族の有無に関係なく、一律で支給されるものは除外できません。
通勤手当 通勤に要した費用や通勤距離にかかわらず、一律に支給されるものは除外できません。
別居手当  
子女教育手当  
住宅手当 持ち家の者は1万円、賃貸の者は2万円といった一律定額に支給されるものは除外出来ません。
臨時に支払われた賃金  
1か月を超える期間ごとに支払われる賃金  

 

基本給の金額を少なくすれば、残業代を節約できると誤解されている経営者さんも時々いらっしゃいますが、間違えないようにしましょう。

 

 

  賃金制度の移行の際に検討すること

移行にあたっては、以下のようなテーマをあわせて検討していくことになります。

・移行時の調整給は支給するか?支給する場合、どのように支給するか?

・賃金制度と合わせて、賃金締日を変更するか?

・賃金テーブルを 社員に提示するべきか?

・賃金制度変更にあたって、社員に通知書を明示するか?

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