コラム・レポート

2020-10-15

同一労働同一賃金に関する最高裁判決を踏まえ労務担当として備えておきたいこと

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20年9月13日に、非正規社員に対する退職金と賞与と傷病休暇に関する最高裁判決が出ました。最高裁判決を踏まえて、企業経営者・労務担当者として備えておきたいことを書きたいと思います。

メトロコマース事件(契約社員への退職金の支給)と大阪医大事件(アルバイトへの賞与支給)になります。

 

■いずれの判決も傾向として
【1】制度の目的と支給実態を踏まえて判断する。
概に退職金が支給されなくてOK/NGと一律に言えるものではない。

【2】あわせて「正社員」と「契約社員/アルバイト」の働き方の違い(異動の拒否権や、与えられる職務の内容)を踏まえる。

【3】正規社員への登用の機会が用意されており、半数以上が登用試験に合格している。

【4】年単位の時間の視点で評価している
組織編制/合併等の歴史や役割分担の見直しの取組みなどの歴史を見ている。

という点を評価していました。

 

■労務担当者や企業経営者として、以下の点については備えておきましょう。

【1】制度の目的は明確に、支給ルールも目的に沿わせる。
メトロコマース事件も大阪医大事件も、賞与や退職金が”何に対して支給されているのか”を評価していました。
これらの制度が、
 ・勤続年数に応じて支給されるものなのか
 ・能力に応じて支給されるものなのか
 ・労働の対価の後払い的な性格なのか
など、どういった意図で払われているのか説明できるか検証しましょう。

「頑張っているから、今回は10万円!」「アルバイトは昔から払っていない」のように、感覚的な”鶴の一声”で賞与や退職金を支給する/しないを判断していると、労務リスクが高まります。


【2】正社員と非正規社員(契約社員/アルバイト)の違いを明確にしましょう

判決では、正社員の待遇と非正規社員(契約社員/アルバイト)の待遇の違いを見ています。
・正社員は異動があり、勤務地と職務内容の変更について拒否権がない。
・正社員はクレーム対応や非定型業務を行い、定型業務は非正規社員が行うなど、仕事の違いや対象となる業務・職務への配置人数の違いが明確である。
などを評価されています。

反対に考えると
・正社員と契約社員/アルバイトで、仕事の内容の違いが説明できない。
(まったく同じ仕事をしている。違うというが明確に説明できるほど違いがない。)
・正社員は異動があると言っても、実態として異動などさせていない。
・契約社員やアルバイトに部下指導やクレーム対等などもさせている。
といったことがあるようでしたら、企業経営としてリスクがあるように思えます。


【3】与えられている仕事がメインの仕事なのか、やむを得ない臨時の仕事なのかを意識しましょう。
メトロコマースの判決の中では「正社員が契約社員と同様に売店の販売業務につくことがあるが、それは欠員が出たときに臨時的に対応していたものであって本来の業務ではない」と評価していました。
臨時的にやっていた仕事が、なし崩し的に定常的な業務となっていると、この点が説明できなくなりますので、業務の内容や仕事の線引きが崩れていないか定期的にチェックをしておきましょう。


【4】非正規社員から正社員への登用など、従業員の意思で処遇を変えることが出来る機会を整備していきましょう。
いずれの企業も「アルバイトから契約社員」「契約社員から正社員」への登用制度があり、応募者の半数以上が試験に合格していました。
非正規の従業員が、みずから処遇を改善する機会を設けているかも評価のポイントとなるようですので、登用制度も順次整備していくことが望ましいと考えます。

 

■最後に
メトロコマースの判決文の補足意見では、「処遇改善は労使で時間をかけて話し合い、積み上げていくもの」といった趣旨の意見が書かれています。

当然に、正社員と契約社員/アルバイトの与えられる役割や処遇は会社ごとに異なり、賞与や退職金の支給の有無についても、一概に白か黒かではありません。
(例:アルバイトはシフトの自由がある。契約社員にも業績責任を課している。正社員は異動・転勤を拒否できない。正社員もアルバイトも実質無期雇用である。など)

安直に「最高裁判決が出たから、自社の非正規社員には賞与・退職金を支払わなくても良い」と決めつけるのは少々乱暴な判断と思います。

・自社の正社員と契約社員/アルバイトは、どういった点で相違があるのか?
・その違いを踏まえると、どのように処遇するのが良いのか?

を時間をかけて労使で話し合ってバランスと折り合いをつけていくことが、求められると考えます。

 

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